魔界南部。
黄昏時を過ぎて、夜の帳が下り始めてきた
ジャリムバハの砂漠を、北へと歩く。
肌寒さを感じながら ふと岩陰に目を向ければ、
アストルティアでは見られない
奇妙な色合いのサボテンが、オーガのおれの身長を ゆうに越える程に高くそびえ立っているのが見える。その先端では、紫色の大輪の花が、
砂漠の厳しい環境にも負けず、逞しく揺れていた。
そのサボテンを取り巻いて茂る謎の草が、
まるで海洋植物の様に見えるのは、
この広大な砂漠が、かつては海の底にあったという
名残りなのだろうか。
☆ ☆

☆ ☆ ☆
おれの名はザラターン。
オーガの、しがない冒険者。
『 おい鬼。
僕は今、悲しみに暮れているんだ…
そしておれを鬼と呼ぶ、
大仰に嘆きながら隣を歩く この魔族は
ツキモリ。まぁ…腐れ縁の旅の相棒である。
『 なんでか分かるか?
『 おう。
もう…3、4回は聞いたからな…
相棒の 本日幾度目かも知れない嘆きに
おれは振り返らず、サボテンを見つめたまま、
苦笑いで後ろ手に頭を掻いた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
さて、旅の道連れはあと2人。
『 もーww
よっぽどショックだったんじゃん?
笑いを堪えながらツキモリに呼び掛けるのは、
ウェディの陽気な吟遊詩人、エスタータ。
『 うるせェ…
この事実にショックを受けずにいられるか。
魔族は鋭い目つきで吟遊詩人を睨みつけると、
大真面目に口を尖らせる。
『 ま、まあまあ!
慌てて二人の間に割って入る人間族の少年。
名をクーという。
『 オレも気持ちは分かるよ…
たま~の、ささやかな楽しみだったもんね。
『 そうだ。それが…!
なだめに入ったクーに向き直って
ツキモリは目を見開き…
道具カバンから残念にしぼんだ皮袋を
取り出して、ずずい、と突き出した。
『 今夜で尽きるんだぞ…!
こないだアズランで買っといた…
『お米』がよォォッ!!
『『『 …… 』』』
静寂の中、遠くで逆巻く砂塵の音と、
吟遊詩人の、笑いを堪える声だけが
しばし、こだましていた。
『 そういや、魔界にゃ米って無いのか?
落ち着きがてら、素朴な疑問をぶつけてみる。
『 …あるにはある。
が…魔界の米は、エルトナの田んぼが育んだあの もっちりふっくらさには到底及ばねェ…
歴々の魔王、大魔王達がアストルティアを
征服しようとした理由も解るってもんだぜ…
『 そ、そんな理由で…
…おれは、かの魔王ヴァレリアが
『我らが掌中に!』と叫びながら、
てんこ盛りのどんぶり飯を掲げているのを想像して、遠い目になるのだった。
☆
さて。
おれ達がこんな所を歩いているのには勿論、
ちょっとした理由がある。
まず、最近のおれ達は、ひょんなことから知り合った記憶喪失の少年…クーの記憶の手掛かりを探すべく、彼と縁深そうな『果ての大地ゼニアス』を
転々としていたのだが…
大きな成果は上げられなかった。
その後、息抜きがてら戻って来た
アストルティアでも、
これと言った手掛かりを掴めず。
そんな流れで、
再びゼニアスに戻る前にダメ元で、と
一応魔界にも足を運んでみる事にしたのだ。
そして…
その魔界でおれ達は偶然、
『思ってもみなかった仕事』を引き請ける事に
なったのである。
発端となったのは、ネクロデアに住む知人…
我が友にして、我が愛剣の刀鍛冶。
そして騎士の戦技における師の一人でもある、
【デッドリー男爵】を訪ねたことだった。
『 土産にな、
エルトナ産グリーンティーの茶葉を
持ってったんだ。
ほら、男爵は紅茶にうるさそうだから、
たまにゃ別のアプローチで、と思ってな。
それがー…
☆ ☆

☆ ☆ ☆
“ これは…ぎ、玉露…!!“
“ えっ…? “
“ ギョーー~ークローー~ッッ!!!“
“ ひいッ!?“
『 引くほど喜ばれてな……
『 いるか?その回想。
…ま、まあ、とにかくその折にした世間話の中で、
おれ達は不穏な噂を耳にしたのである。
デッドリー男爵曰く。
最近、魔界ではー…
ゼクレスとバルディスタの二国が、
一触即発の状態…つまり。
『戦争沙汰』になりかけている、
というのである。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 少しでも量を誤魔化すために
雑炊にすべきか…?
それとも潔く豪快に、握り飯…?
いや、それともいっそ、炒…
『 おっと、その話はとりあえず後だな。
見えてきたようだぜ、目的地。
~つづく~