『 死神。
敵の親玉の背後にゆっくりと姿を現したのは、
なんとデッドリー男爵だった。
真黒なノーブルハットの下で、
眼球無き相貌が、朧な光を放つ。
大男はその不気味な様子に一時狼狽するも、
どうにか気勢を取り戻し、声を張り上げた。
『 死神…だとォ…?ふざけた野郎だ!
テメェもコイツらの仲間かァ!?
ち、警備はどうなってやがる!
どいつもコイツも、妙な連中を
簡単に侵入させてんじゃねぇぞ!
男爵は、こちらに片手を上げ無言の挨拶を送った後、大男の怒声に辟易したように肩をすくめた。
『 ふむゥン…
まずは質問にお答えしよう。
一つ、察しの通り、私は彼等の盟友だよ。
そしてもう一つ。警備の者だがー…
先程も言ったが、この遺構内にもはや、
君の援軍足り得る戦力は残ってはおるまいよ。
皆、私と遊び疲れて眠ってしまったからね。
事も無げに言い放たれた男爵のその言葉に、
敵味方入り混じり、場は騒然となった。
『 あ、遊び疲れ…男爵、
そ、それって…
『 えっ!?ちょっ…で、でで
デタラメ言ってんじゃねェぞオラァンッ!?
『 なに、皆、明日の朝には目を覚ますだろう。
怪我の治療は必要かもしれんがね。
いやはや、感謝するよザラターン君。
君達の派手な陽動作戦のお陰で、
私は悠々と、実にスムーズに…!
このアジト内を調べ回る事ができた。
見たまえ。この戦利品の数々を!
場が騒然を通り過ぎて呆然に差し掛かる中、
男爵は己のペースをまったく崩す事無く、
懐から、押収したらしき色々な書類の束を次々に
取り出してゆく。
まずは、闇取引の詳細を記した密書。
どうやら奴等は、ゼクレス、バルディスタ両国相手に見境無く商売するつもりだったらしい。
次いで取り出された、取り扱い商品の目録には、
魔瘴弾をはじめとした、禁制品とされているであろう数々の危険な品名が並んでいる。
まったく、絵に描いたような闇商人ぶりだ。
『 そして戸棚にあった、この…
場に似つかわしく無い
ゼクレス産の高級ヴィンテージワインと
マカイマカロンの菓子は、差し詰め取引先からの お近付きの印といった所かね?
『 あー!それは俺の秘蔵のーッ!
『 男爵…有能すぎるだろ…!
更に、懐のどこにそんなスペースがあるのか。
取り出された酒瓶と菓子折りに、
大男は頭を抱えて悲鳴を上げ、
ツキモリが目を輝かせるのだった。
おれは、色々なモノが半開きになった顔で
その様子を見ていたのだが…
不意に大男がこちらを睨みつけてきた。
『 畜生ッ!!
テメェら囮だったんだなッ!?
どおりでバカみてェにあっさり
見つかったと思ってたんだ!
バカみてェによーー!
くそ、疑うべきだったぜェーッ!!
『『『『 ……… 』』』』
……仲間達からの何とも言えぬ視線が、
おれに集まってくる。
『 そ……
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 そうだ!囮だ!
陽動作戦だったんだよばーかばーかッ!
『 ヤケクソじゃん。
『 うるへー!
ともあれ、有能な男爵のお陰で、
この場で成すべき任務は、
ほぼ終わったと言って良い。後はー…
『 と、とにかくだ!
もはや隠し立ても
言い逃れもできんだろう。
アンタら、神妙にお縄についたほうが
身の為ってモンだぜ?
咳をきって平静を装い、
大男達に降伏勧告をするが…
それは受け入れられなかった。
どうやら相手方にも、意地というモノがあるらしい。
『 魔界の商人、ナメるなよォ…?
数もまだコッチが倍だッ!
テメェ等を皆殺しにすりゃ
世はなべて事も無しってヤツよッ!
いくぜ野郎共ォォッ!!
かくして、戦闘は始まった。
『 ぱんつマスクは おれがやる。
ここいらで名誉挽回だ。
『 挽回する程の名誉なんてあったか?
『 うるへー!
おれの宣言に容赦無いツッコミを入れながらも
了承はしたらしく。ツキモリは敵方の手下を
視野に入れたまま、呪文の詠唱を始めた。
エスタータも竪琴を爪弾いて
“戦いのビート“を奏でる。
クーの事は少し心配だったが、
打ち込んで来た手下の一人に果敢に応戦する
様子を見て、おれはその考えを改めた。
( 随分強くなったもんだ。
『 汝等が刃、我等が身 傷付ける事あたわず…
脱力せよ…!“ヘナトール“ッ!
ツキモリの呪文が完成し、どうやら無事、
効力を発揮したらしい。
無勢の乱戦を補う、見事な戦術。
どうやら おれは、
目の前に集中するだけで良さそうだ。
~つづく~