『 ツキモリ、危ない!
エスタータの悲鳴が急を告げる!
見れば、長靴に仕込んでいた小さなナイフで
自らの拘束を解いたらしき大男が、
無造作に床に転がしていた戦斧を素早く手にして、
今まさにツキモリに襲い掛かからんとしていた。
しまった!
パンツとマスクばかりに気を取られ、
ブーツに目が行ってなかった!
…なんて…
そんな軽口が叩ける程度には、
おれは警戒を怠ってはいなかった。
ハナっから、この男を信用してはいないのだ。
そして、おれよりも頭の回るツキモリが、
この状況に油断しているはずが無い。
『 誰が阿呆だって…?
吟遊詩人の本気の心配をよそに。
ツキモリは小さく鼻を鳴らすと、
僅かに身じろいだだけで、
事も無げに戦斧の一撃をかわすのだった。
いや、正確には…
かわした…はずだった。
振り抜かれた戦斧は、確かにツキモリの身体を
傷付ける事はできていない。できてはいないのだが…
だが紙一重で、ツキモリが腰に括り付けていた
『皮袋』を切り裂いていたのだ。
『『『 あ。 』』』
切り裂かれた皮袋から勢い良く散乱してゆくは、
エルトナの大地が育んだ、
砂金の如き乳白色の小さな粒たち。
というか…うん。
『お米』だ。
( こ、これはー…
( やっば…っ!
( ひえぇ…
ツキモリが無事で悔しがる大男、
そして安堵する男爵を尻目に、
事の重大さを知る おれと吟遊詩人、
そしてクーは三人で顔を見合わせた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
恐る恐る、魔族の顔色をうかがう。
奴は何故か、満面の笑みを浮かべていた。
あ、こりゃダメだ。
感情が一周回っておかしくなってる。
『 お、おい、ツキモリ…
お、落ち着け…なっ?
『 ………
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 “ イオナズ…“ッ!!もがッ!
『 わー!
『 まてまて待てーッ!
『 ま、ましょっ!魔瘴弾がー!!
ゆうばく!誘爆するからーーッ!!!
『 !!!!
『 ……!!!
かくして。
口を塞がれてなお暴れ回る魔獣と化した
ツキモリに、おれ達は全力で対応に追われ、
ようやく状況を理解した大男は、
己の所業を激しく後悔する事になる。
これが、今回、魔界の片隅であった
ちょっとした捕り物の一部始終である。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
そして夜が明けて、数日後。
おれ達は、ファラザードの街にいた。
男爵を介してではあるが、
今回の仕事は元々、非公式ながら
この国から請け負ったものだったからだ。
無論、この件で動いていたのは
おれ達だけでは無い。
各方面から同時に、そして多角的に
様々な人間が動いて、大小、様々な捕り物、
取り締まりがあったようでー…
様子を伺うに、
今までのところ、成果も上々なようだ。
色々ありはしたが、
おれ達も一応、任務は完遂。
大手を振って凱旋してきた、というワケだ。
『 そう落ち込まないでって!
もごっ…
トカゲの串焼きも おいひ~よ、鶏肉みたいで! なんか口の中がパチパチふるへど…
…ナニコレ?
『 知らねェよ。
てか、別にもう
落ち込んでもいねェよ…
城下のバザールにて。
活気に満ちた大通りの一角で、
やたら気の良いアークデーモンの屋台で買った、
魔界トカゲの串焼きを、豪快にかぶりついて
モゴモゴと頬張るエスタータを一瞥して、
魔族は鬱陶しそうに、
手にした果汁の杯を一気に煽った。
初めて見るであろうトカゲ串を前に、
怖気付く そぶりすら見せない吟遊詩人に習って
とりあえず、おれも興味本位でひと齧り。
クーも覚悟を決めたようで、恐々おれに続いた。
『 確かに口の中がパチパチするな…!
ナニコレ?
『 わっ、本当だ!ナニコレ!
『 でしょー!ナニコレ、クセになりそう!
『 いちいちうるっせェなお前ら…!
そーいうモンなんだよ、
魔界トカゲはよッ!
『 よう!
相変わらずだな、お前ら!
『 !? 』
…そんな、おれ達の どうでも良い会話は
突如、気さくな挨拶の声に遮られた。
魔界に親密な知り合いは多くは無いが、
この声の主の覇気と存在感だけは、
一度会えば忘れるべくもない。
『 貴方はー…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 どうだ?
魔界トカゲはお気に召したか?
ん?…よく見りゃ一人、増えてるか?
『 あー!ユシュカ様っ!
『 魔王…ユシュカ…
『 えっ、魔王…!?
久しぶりの再会に、歓声を上げるエスタータ。
その後ろで呟いたツキモリの
不穏な響きの二文字に、クーだけが一人、
目を白黒させるのだった。
~つづく~