夜明けまで休んでから
焚き火跡を引き払ったおれ達は、
水脈洞を更に進む。
程なくして、硬い岩壁の一角に混じって、
比較的柔らかな土を掘り進め、脇を固めた
トンネルのような小道が見つかった。
それを認めて、ツキモリがしたり顔で頷く。
『 よし…どうやらまだ、抜け道は
塞がれちゃいなかったようだな。
真っ直ぐにトンネルを進んだ先は、行き止まり。
だが、その突き当たりの壁は、
明らかに人工物のようだった。
ツキモリに促され、その壁を構成している
幾つかのブロックをゴトリと抜き取ると、途端、
ツンとした臭気が鼻をつきはじめた。
つまりこの先はー…
『 わぉ、なまぐさっ!
本当に下水道だー♪
『 ひとまずは潜入成功、ってワケだな!
『 浮かれるな。本番はこれからだ…
お前ら解ってるな?
『 う、うん。アレだね。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 わふん。
『 きゃん!
『 わ、わん…!
『 …本当に大丈夫かよ。
かくて、おれとエスタータ、そしてクーは
へんげの杖を振りかざし…
ゼクレスの下水道を、眉間にシワ寄せながら
3匹の小型犬を引き連れ、魔族が行く。
それからさほど時間もかからず、
人通りの少なそうな場所へ通じる出口から、
おれ達は見事、誰にも気付かれること無く
市街地への侵入を果たすのだった。
『 よし…手筈どおり、ここからは別行動だ。
しばらくしたら、さっきのトンネルで
落ち合うとするか。
『 わふん。
『 きゃん!
『 わ、わん…!
『 はぁ…不安だぜ…
☆ ☆ ☆
というワケで。
一旦仲間たちと別れ、おれは男一匹、
てくてくと市街地を往く。
改めて犬目線になってみると、
オーガの時と比べて、地面が滅茶苦茶近くて
新鮮だ。
感覚を慣らしがてら、山の手…
貴族街に向かっていると、
うっかり巨大な生物にぶつかりそうになった。
( なんだ?巨人か…?
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 きゃーッ!
なんですのー!
この小汚いワンコはーッ!
こんなのを野放しにしないで
ちょうだい!ちょっと誰か!
早くつまみ出してくださるーッ!?
…なんだ、プクリポ系の魔族か。
普段のおれも多分、プクから見たら
巨人のように見えているんだろうな…
それにしてもヒドい言われようだ。
…そんなことを思いながら、
おれはとっ捕まる前に、この場を離れる事にした。
どうやら貴族街では、犬ひとつ取っても
毛艶や血統が重要視されていそうである。
( 世知辛い…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
下町へと歩きながら、それと無く周りの様子を探る。どうやら街は、突然の鎖国令を受けて
どよめきの最中にあるようだった。
しかも その国境封鎖が、バルディスタとの
戦に備えてのもの、という噂を、なぜか
当の住民達の大半が知らないらしくー…
多くの人が、言い知れない不安と混乱を
抱えて生活しているようである。
( 何だ、この違和感は…?
この国で何が起きている?
…考え事しながら歩いていたせいで、
おれは再び、何か巨大な物質に
ぶつかってしまった。
これは…足?騎士の身に付ける、具足か。
見上げれば大巨人…否、兵士風の鎧を着た、
なんだか疲れた顔のオーガ系魔族の男が、
酒瓶片手に、広場のベンチに腰掛けていた。
思わず目が合ってしまってビクリとなるおれに、
酒が入っているであろう男は、意外にも優しく、
しかし哀しそうに微笑みかけてくるのだった。
『 よぉワンちゃん…聞いてくれよォ…
俺…リストラされちまったァ…
『 わ、わふん?
誰かに聞いてもらいたかったのだろうか。
男は、聞いてもいない己の半生を、
こんこんと語り始めた。
平民が成り上がるのが難しいこのゼクレスで、
必死に頑張って、ついに兵士に取り立てられた事。
先の魔界大戦と、その後の大魔瘴期の戦いで
大きな武勲を立てて、
近衛の騎士に大抜擢された事。
『 目立った失敗なんてしてねぇはずだ。
全部、順風満帆だったんだ。
剣の腕だってよォ…ヒック、
騎士団の中で5本の指…とはいわねぇが、
多分、20くらいには入ってる。
そんな俺が…一昨日。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
“ アンタ、今日限りクビね!
二度と私に顔を見せないで。“
“ えっ…!?
なぜ…何故ですか魔王様!“
“ 顔がドッグラマッコイに似てるから。“
“ えーーーッ!!?“
☆ ☆ ☆
『 って、よォ…!
『 ッ!!!?
『 結局顔か、顔なのかよォ…!!
『 わ、わふん…!
~つづく~