あえて主張すれば、このエピソードは魔眼の月への突入と合わせて6.5後期に織り込むべきだったとは思う。英雄たちを月に誘うあいだにジアクトの軍勢がアストルティアを襲う。迎え撃った勇者姫が心配だろうと、魔眼の月は主人公と英雄たちに任せて初代勇者が地上に戻る。アストルティアを守る勇者たちと、魔眼に挑む英雄たちの二篇の物語。アシュレイにかっこつけて言わせるならば、
「英雄なんてガラじゃない、オレは勇者だからな」
単純で悪意がなく、かっこよいところを見せたいと思ってかっこよいことをしてくれる正統派の勇者アシュレイ。他人を疑おうとしないから他人にだまされていることに気づかなかった。そんなおひとよしのおせっかいはこの世界に何人もいる。成層圏よりも高い天空の世界で生身の人間が生きることはむつかしい。天才パルミオはどうだったとかこまかいつっこみどころに目をつぶれば、アンルシアたちが地表に残された理由だし、天空につくられたおひとよしの英雄たちが天星郷を守ろうとした理由でもあるだろう。
石ころ生物ジアクトが、アストルティアの地表に念晶巨人を投下した。創生のエネルギーを吸い上げて魔眼に送るシロモノで、山よりでかい巨大兵器をぶっこわせと六柱の後ろ盾を得たサメきぐるみマメミムが巨大化する。ナドラガvsブオーンの大迫力バトルにはほどとおく、特撮番組をスタジオで撮影してますふうの戦いが終わると巨人のコアだけが残された。石ころの軍勢が押し寄せて、盟友の危機にアンルシアが駆けつける。
あらすじだから要約する。
勇者の覚醒は誰かを守りたい思いから発現する。かつて勇者だったアシュレイは、だっせえ王としてトランブルから我が身を守るためにチカラを使っていたけれど、悪神の後悔を断ち切られた彼は身を呈してユーライザすら助けようとする勇者だった。アンルシアもそうだったように、見知らぬ者や蔑んだ者でも助けるならば迷いはない。お城のテラスから遠くサメきぐるみが戦う姿を見れば、彼女だったら盟友の危機だと駆けつける。
アシュレイはたぶん「女性の前でかっこいいところを見せたい」という彼らしく軽いところがある。それでもレオーネが憧れたように、アシュレイは裏表がないまっとうな性格をした勇者そのものだった。厳しい修行を明るくのりこえる。困っているひとがいれば笑顔で手をさしのべる。大魔王の軍勢が押し寄せてもみんなでチカラをあわせて諦めずに戦いぬく。レオーネのこともガーニはんのこともダフィアのことも信じて疑わない。
他人を信じて疑わなかったアシュレイは絶望の底に落とされた。それで後悔したアシュレイはひとを信じることをやめずに悪神になってもレオーネを信じていた。彼がそれでも最後まで彼らしいままであったことを、レオーネはやっぱり憧れの目で見ていただろう。
数千年をして、勇者アシュレイの名前もゼドラ王アシュレイの名前も残されてはいなかった。だけどいまの時代にも勇者はいて、勇敢なお姫様とおひとよしの盟友が世界を守ろうと戦っている。アシュレイが望んだことは数千年先に名前を残すことじゃないはずだ。勇者のチカラで誰かを守りたい。女の子の前でかっこいい姿を見せたい。我が身をさしだして勇者姫アンルシアを守ってみせた。それはアシュレイが思い描くかっこいい姿そのものだ。
勇者として大魔王を倒して師匠も弟も守ることができなかった。
王として民に否定されて友人すら手にかけた。
そんな彼の生涯は、当代の勇者姫を守る勇者として終えることになる。そう思えばけっこうかっこいい人生だったのではないか。あのままだっせえ王として終わるくらいなら、天星郷のいけすかない連中も、もう一度彼に機会を与えてくれた天使だったにちがいない。
マメミムならばなんというだろう。
アンルシアを守ってくれた勇者に感謝をしないわけがない。