ナムさんの家を見にいこう。シルルさんにお誘いいただきルーラ石を借りてお邪魔する。ハウジングの世界に疎いマメミムだけど、ナムさんのタウンはなんどか訪れたことがあって、なにしろ「そこにあるべきものがそこに必ずある」ことにたびたび圧倒された記憶がある。そこにゴミ箱がないならゴミ箱は絶対ないし、そこにゴミ箱があるべきなら必ずゴミ箱がある。それがナムさんのハウジングだ。
日誌に掲載されていた、オープンハウスの告知は拝見したことがあったけど、天涙の大水源と書かれていたことしか覚えてない。あのチンパンティスことカンティスが設計した試練場のある場所だ。
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ナムの町
7467-2902丘の町1番地
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降りてすぐ目に入ったのは紫陽花の小道、ではなく、その小道をまたいでいるアーチ門めいた橋だった。石造りの橋といえば古代ローマを思わせるけど、橋脚は華奢でギリシアふうの飾りが彫られている。アーチ部分も組まれた石ではなく立派な大理石が貼られている。見上げると青空にかかる虹からきらきらと光が降っている。
なるほど水道橋だ。
はるか山々にある水源から、街まで石造りの水道を敷いてくる。その水道から邸宅まで分水してもらった専用の水道だ。たぶん邸宅のあるじが高名なギリシア人の建築家に依頼をして建ててもらった水道だろうと妄想する。橋の上には浅い水が流れていて、気化しながらそこらを冷やして涼やかにする。橋脚の影とふんだんな水が、紫陽花の小道のある前庭を用意する。そんな背景が頭に浮かぶ。ただ前庭にいるだけで、邸宅にも足を踏み入れずにそんなことばかり考える。
橋の向こうには石の家。
彼らは石を友にして水を支配するとそれを文明と呼んだ。アーチと橋脚をくぐり、ようやく邸宅に足を踏み入れる。そこにあるのは簡素だけれど静かな部屋。窓から差し込む光。窓の向こうには石造りの立派な橋と水が広がる庭園だ。それが水道橋であることを教えてくれるかのように、橋の一端からはごうごうとあふれた水が庭園に流れ込んでいる。
水と人の境は石によって隔てられる。人が暮らす場所には木造りの家具が据えられて織られた布がかけられる。境の向こうには草木や花が水を彩るべくていねいに配されて、それらが豊かな自然ではなく管理された文明の所産なのだと知らしめる。部屋には本が置かれて茶が注がれている。本は誰かの写本かもしれないし、あるじが自ら綴った記録かもしれない。
庭園を流れる涼やかな風が、乾いたこの地域の空気にやわらぎを運んでくる。夕刻になれば水辺に蚊が集まるから、薄布を広げなければいかんのですよ。会ったこともないあるじが苦笑をしながら帳を引く姿が目に浮かぶ。水道のさらに向こう、はるか先まで彼らの世界は広がっているのだろう。異国から届けられた立派な絨毯が目に入る。
ほんの数十分、こんなことばかり考えては話している。
すばらしい世界を描いてくださったナムさんと、この邸宅に暮しているのであろう家主様に敬意を表して、何枚か撮影した写真からよさげな一枚を探してみる。