魔眼の月。惑星オルデランを破壊した直径120kmの軍事要塞のことではないし、イゼルローン回廊を封鎖する質量60兆トンの人工天体のことでもないし、ミッションストライカーで挑む惑星基地ソレイユのことでもない。ジアクトと称する石ころ生命体たちが創生のチカラを吸い上げるための拠点。ビジュアル的にはあの映画の影響だよねと指摘するのは野暮である。
自我に乏しく、接触した相手の影響を受けやすい。
ジアクトこと石ころ生物たちの特徴だ。旧世界ではガナン帝国の影響を受けて、アストルティアでは天星郷の影響を受けた彼らが学んだのは、頂点に立つ絶対者が他者を威圧して支配する社会だった。こけおどしだけど似たもの同士の羽つきたちには効果がある。石ころ生物に襲われて動揺した羽つき生物たち。神具をこしらえて姿を隠す。創生の巨人で巨人を迎え撃つ。英雄たちを特攻させて月を撃破する。彼らのさくせんはどれもこれもまずいものだったけど、争いはレベルの近しいもの同士で行われるものだ。
ではマメミムならばどうするか。
あのうすらでかい役立たずの試練場を動かして月にぶつけてしまえ。試練も終わって使い道もないし、チンパンの天使たちをくくりつけて飛ばせば空の一隅をきれいにもできる。宝箱やキラキラもいっしょに破壊されてしまうけど、時渡りの主人公ならばエテキューブで当時に飛んでいけばいい。そんなことを考えたけど、ぶつけるなら造成地でいいんじゃないかとアドバイスも頂いた。ヒマエルを避難させればもうひとり左遷されていた気もするけれど、空にでっかい花火が舞ったあとで大空に映るメドナムの顔が見えるだろう。
ということをやるぞと石ころどもに思わせればいい。
大事な拠点にでかい土くれをぶつけられそうになれば迎撃するしかない。そのあいだに英雄たちが潜入する。そうすればたぶんお話の流れも結末もなにも変えず、羽つきたちを英雄たちとともに戦わせることができたろう。いつの時代でもどの種族でも変わらない。いっしょに戦った記憶が人に感謝と信頼を残す。それが歴史というものだ。
けっきょく特攻してもぐりこんだ月の中は、ただひたすらでかくて広いだけでなにもない。理由もわからず模倣するだけの石ころどもが建てた要塞だから、そこにあるべきものがない。搬入路に使えど運搬路がない。重要な場所の区画が分かれてない。侵入者に備える門がない。別世界のデスタムーアならばこんな遊園地めいたつくりを好むかもしれぬ。
英雄たちを待ち構えた黒いヒャッヒャマンも、誰かしら策謀家のまねごとをしていたのだろう。彼らの目的が創生のチカラを手に入れることだったのか、抵抗する戦力を削ぐことだったのかもわからぬままに、英雄たちの意表をついて嫌がらせをすることに専念した。種族の念願たる創生のチカラを守ろうとするわけでもない。彼らの支配者たるゲノスを守るわけでもない。英雄たちの何人かを倒してみせたのだから、彼としては満足したのだろうか。
首魁たるゲノスはどうか。彼の目的は明確だ。ジアクトも羽つきもどうでもよくて自分がいちばん偉ければいい。威張ることと見下すことができればいい。ガナン帝国の皇帝や天星郷の長をまねしているだけで、ではどうして皇帝や長に皆が従うのかは理解をしていない。ジアクトは支配することを疑わないし、ゲノスに支配されることも疑ってはいなかった。はじめてそれに疑問を持ったサフィルはもういない。
やりたいことをやればよかった。
ラダ・ガートは王様ではなく英雄になりたかった。三闘士は義兄弟たちと憂いなく暴れまわりたかった。ハクオウは戦場を託せるほどのなかまがほしかった。リナーシェは最後まで誰も疑いたくなかった。アシュレイはかっこいい勇者になりたかった。レオーネはかっこいい勇者を支えてこっそり笑ってみせたかった。
彼らはきっと、やり残したことがあったから誘いを受け入れたし、満足できたならばチカラ尽きても気にしなかった。いけすかない天星郷の連中に声をかけられて、なるつもりもない神様への試練を受けさせられたとしても、後悔を晴らしてくれる機会を与えてくれたことに彼らは心から感謝をしているだろう。魔眼の月にも天星郷にも、それだけの思いがあるものはいたか。
ひとりだけ。
ルーベを守りたいと願ったやつがいたけれど、彼の願いがかなえられなかったことに後悔の思いだけが残される。