倉庫番いおり、葉月と宝探しへ
ウェディのいおりは、長いあいだ住宅村の倉庫の前から動いていなかった。青い髪も整った顔も昔のままだったが、着ているのは預かり所から引っぱり出した白いシャツと色あせた革のズボンで、足元には左右で色の違うブーツを履いている。倉庫の中には使わなくなった剣、古いイベント衣装、いつ拾ったのか分からない小ビンが詰め込まれ、テーブルには昨日みるくが置いていった乾いたクッキーが三枚残っていた。いおりはクッキーをかじり、口の中の水分をすっかり奪われてから、隣にいた葉月を見た。
「今日から俺は、冒険者として生まれ変わる」
「まず、そのクッキーをお茶なしで食べる癖を直したほうがいいよ」
「ストーリーを最初から進める元気はない。だが、この顔を倉庫番だけに使うのは、アストルティアの損失だと思う」
「自分でイケメンって言う魚男、初めて見た」
葉月は緑色のチュニックの袖をまくり、倉庫の奥から一枚の古びた写真を取り出した。そこには夕焼けに染まる海岸と、三本並んだヤシの木、その根元に置かれた赤い宝箱が写っていた。写真の裏には「甘い匂いのする岩を探せ」と書かれていたが、いおりには岩から甘い匂いがするとは思えなかった。外では八月の日差しが白い石畳を照らし、開け放した窓から潮の匂いと、近所の家で焼いている魚の匂いが一緒に入ってきた。
「これ、宝の写真じゃないかな。場所を探してみようよ」
「よし、それなら世界を救わなくていい。今日の俺にちょうどいい冒険だ」
「お弁当も作ろう。途中でお腹がすいたら、いおりは絶対に帰るから」
「俺を甘く見るな。焼きそばパンが二個あれば夕方までは戦える」
二人は焼きそばパン、冷たいレモン水、やくそう十個を布袋へ入れ、ジュレットの町から海岸へ出発した。砂は太陽の熱をため込み、薄いブーツの底からじりじりと熱が伝わったが、海から吹く風は冷たく、いおりの青い髪を後ろへ流した。途中で小さなスライムに出会うと、いおりは倉庫から持ち出した銅の剣を勇ましく抜いたものの、鞘の中にたまっていた埃で大きなくしゃみをした。
「はっくしょん! 葉月、今のは敵を油断させる作戦だ」
「スライム、もう逃げたよ」
「俺の気迫を感じたらしい」
「剣より、まず鞘を拭いたほうがいいね」
昼過ぎ、二人は三本のヤシの木を見つけたが、赤い宝箱はどこにもなかった。いおりは額の汗を白いシャツの袖で拭き、岩を一つずつ嗅いで回ったため、鼻の先に白い砂がついていた。葉月が笑いながらレモン水を渡すと、いおりは木陰へ座り、つぶれた焼きそばパンを半分に割った。ソースの匂いが潮風に混じり、近くを飛んでいた鳥が二人の頭上で何度も旋回した。
「甘い匂いなんてしないぞ。写真が古すぎたのかな」
「この焼きそばパン、少し甘いよ」
「まさか、ヒントは昼飯だったのか」
「違うと思う。でも、あの鳥がパンを狙っているみたい」
いおりがパンを高く掲げると、鳥は急降下して奪い取り、そのまま海岸の端にある大岩へ飛んでいった。二人が追いかけると、大岩の陰には黄色い花が群生し、蜂蜜に似た濃い香りが漂っていた。花の下を調べた葉月の指が固い木の蓋に触れ、砂をかき分けると、写真と同じ赤い宝箱が現れた。いおりが力を込めて蓋を開けると、中には古びた海賊帽、金貨の入った小袋、そして「次の宝は月の見える洞窟に眠る」と書かれた紙が入っていた。
「葉月、見ろ。冒険が次の冒険を呼んでいる」
「今日は帰ろう。洗濯物を外に干したままだから」
「では明日だ。明日から俺は、本当に冒険者になる」
「今日もちゃんと冒険者だったよ。焼きそばパンを鳥に取られたけどね」
夕暮れの海岸を歩くいおりの頭には、少し大きすぎる海賊帽が載っていた。金貨はわずかだったが、布袋の中で鳴る音は倉庫の鍵より軽やかで、次はどんな服を着ようか、洞窟には何を持っていこうかと考えるたびに足が前へ出た。葉月は残ったクッキーを一枚渡し、いおりは今度こそレモン水と一緒に食べた。世界を救わなくても、長い物語を一気に進めなくても、明日行きたい場所が一つあれば、倉庫番だった魚男の冒険はもう始まっていた。