笹団子を持った彦星
八月七日の夜、いおりはみるくのマイタウンに作られた竹林へやって来た。白銀の鎧に同じ色の長靴を合わせ、腰には赤い柄の剣を差していたが、今夜の手には武器ではなく、笹の葉で包んだ団子の袋がある。家を出る前に慌てて食べたアジの開きの小骨がまだ歯の間に挟まっている気がして、いおりは舌で何度も奥歯を確かめた。そんな姿を見られては彦星らしくないと思い、行灯のそばへ座って背筋を伸ばした。
「みるく、まだかな。笹団子が乾かないうちに来てくれるといいんだけど」
竹の葉が夜風にこすれ、さらさらと頭上で鳴った。紫や桃色の短冊が揺れるたび、行灯の黄色い光が水面で細長く伸びたり縮んだりする。やがて草履の軽い音が聞こえ、桃色と白の織姫様の衣装をまとったみるくが、裾を両手で持ちながら竹林へ入ってきた。背中の白い飾りは大きな輪を描き、いおりには天の川を渡るための翼のように見えた。
「いおり、お待たせ。帯を結び直していたら、三回もほどけちゃったの」
「三回も? それなら、ぼくが待った時間より支度のほうが長かったね」
みるくは頬を膨らませたが、すぐに行灯の隣へ腰を下ろした。近づくと、衣装から昼間に使った花の香油がかすかに漂い、その中に笹の青い匂いが混じった。いおりは袋の口を開け、少しつぶれて丸みのなくなった笹団子を一つ取り出した。道具袋へ水筒と一緒に押し込んだせいだったが、形より味だと言い聞かせ、両手でみるくへ差し出した。
「今夜も逢えてうれしいよ」
「わあ、笹団子! 彦星様は手ぶらで来るものだと思っていたわ」
「一年に一度しか会えないのに、手ぶらでは来られないよ。でも、お茶を忘れた」
「大丈夫。私が麦茶を持ってきたの。少しぬるくなったけどね」
みるくが笹の葉を開くと、よもぎの深い緑色と甘いあんこの匂いが現れた。二人は団子を半分ずつ食べ、ぬるい麦茶を交代で注ぎながら、去年から今日までに起きた出来事を話した。みるくは庭具を何度も置き直した話をし、いおりは倉庫の整理を始めたのに古い剣を眺めて一日が終わった話をした。天の川に関係のない話ばかりだったが、一年分の暮らしを伝えるには、そういう寄り道のほうが大切だった。
「来年も、ここで会えるかな」
「会えるよ。祭り会場がなくても、みるくが自分で七夕を作ってくれたから」
二人が見上げると、短冊の間を青白い光が横切った。みるくは目を閉じ、今日の食事やゲームや、こうして誰かと笹団子を分けられる時間に気づけるよう、幸せを感じる心を育てたいと祈った。いおりも隣で手を合わせたが、願い事は口にせず、残った団子をそっとみるくの手へ載せた。行灯の明かりに照らされた竹林で、今年の彦星と織姫は、天の川より先に空になった団子の袋を見て笑った。