銀のロザリオがつないだ命
深夜零時を過ぎたころ、いおりは魔法の迷宮の入口で銀のロザリオを握っていた。白い上着とズボンに銀色の長靴を合わせ、背中には赤い柄の剣を差しているが、仲間を表示する欄には自分の名前しかなかった。夕食に作った卵焼きは皿に一切れ残り、湯飲みのほうじ茶も机の上ですっかり冷めている。今夜こそ完成させると決めたいおりは、五パーセントの合成効果が三つ並んだロザリオを首へ掛け直した。
「致死ダメージを受けたとき、約十八パーセントで生き残る。ついに理論値だ。誰も見ていなくても、これは立派な完成品だよな」
迷宮の奥では、大きな黄色い悪魔が三つ又の槍を構えて待っていた。青い腹を揺らし、紫色の靴で石床を踏むたび、砕けた石と砂が跳ね、鼻をつく焦げた匂いが広がった。いおりは何度も通った道を走りながら、破片を集めては合成し、望まない効果を消してきた夜を思い出した。一度で完成したわけではないからこそ、胸元の小さな銀色が新品の剣より頼もしく見えた。
「さあ、来い。こっちはコツコツだけなら負けないぞ!」
悪魔の槍が横から振り抜かれ、いおりの体は石床へ転がった。耳の奥で鐘のような音が鳴り、体力が消える寸前、銀のロザリオが白く輝いた。いおりは片膝をついたまま踏みとどまり、震える指で回復薬の栓を抜いた。薬は青臭く、いつ飲んでも舌がしびれるほど苦かった。
「生き残った! 五パーセントを三つ付けた甲斐があったな」
「グオオオッ!」
「大声を出さなくても聞こえているよ。こっちは一人だから、返事をする相手が欲しかったところだ!」
いおりは立ち上がると、悪魔の足元へ駆け込み、剣を大きく振り上げた。刃が青い腹へ当たり、最後の一撃が決まると、黄色い巨体は尻もちをついて光の粒へ変わった。宝箱から出たのは見慣れた破片で、豪華な品ではなかったが、いおりは捨てずに道具袋へしまった。袋の中には使いかけの薬草、固くなったパン、拾ったまま忘れていた小石まで入り、歩くたびにがちゃがちゃ鳴った。
「理論値ができた後にも破片を拾うのが、ぼくらしいな。いつか別の役に立つかもしれないし」
迷宮を出ると、夜空には小さな星がいくつも光っていた。祝福する声も拍手も聞こえなかったので、いおりは自分で三回手をたたき、銀のロザリオを月明かりへ掲げた。帰ったら冷めた卵焼きを食べ、ほうじ茶を温め直して、今日の成果を帳面へ書くつもりだった。一人分の足音は小さかったが、昨日より強くなった証しは胸元で確かに揺れていた。
「完成おめでとう、いおり。明日もまた、コツコツやるっきゃないよな!」