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フォースマエストロ

ミラージュ

[ミラージュ]

キャラID
: DX235-898
種 族
: ウェディ
性 別
: 男
職 業
: 魔法戦士
レベル
: 130

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ミラージュの冒険日誌

2020-10-05 23:17:58.0 2020-10-05 23:19:16.0テーマ:その他

彼方からの客人(6)~なりきり冒険日誌【ver5.2に関する記述有り】

 旅は続く。
 ジュレットからジュレー街道を北上し、夏の名残を惜しむキュララナビーチを右手に見送りながら更に北へ。
 再び潮の香りが近くなってきた。
 渡し舟に乗れば、そこはもうヴェリナード領だ。青ざめた大地をサンゴが彩り、陸生の海藻が風に揺れる。入道雲は依然変わらず常夏の空にそびえ立つ。
 道中、シリルは聞かれるままに様々な知識を披露した。私も王宮に使える魔法戦士として少しは勉強したつもりだったが、彼の学識はそんな付け焼刃など及ぶべくもない、深く広範なものだった。
 古代史にまつわる逸話、添えられた詩、各時代を支えた文化と芸術……
 私はもとより、ツスクルで学んだリルリラも白旗を上げるのだから、相当なものだ。
 青年学者は穏やかに首を振る。

「知識だけだよ。旅のやり方は君たちに教わった」

 シリルが爽やかな笑顔を向けると、リルリラは照れ笑いと共に私の背ビレに隠れるのだった。

 我々は街道を道なりに進む。そろそろ海の向こうに海上都市ヴェリナードの姿が見えてくる頃だ。
 女王陛下のおひざ元。歴史に彩られた白亜の都市。そしてオーディス王子が新たな歴史を刻むであろう場所……

「王子が、ラーディス王以来の男王に?」

 シリルが興味を示した。

「ああ、多分なるだろう」
「興味深いね……」

 彼は顎に手をあて、思案顔となった。我々の生きているこの時代も、いずれは学者たちの研究対象となるのだろうか。
 ヴェリナード、アストルティア、そして魔界の歴史……。
 私はふと、魔界情勢についての見解を彼の口から聞いてみたくなった。
 もちろん魔界探索については内密のことだから、正面から聞くわけにはいかないが……

「そういえば、これは最近、知り合いの調査員から聞いた異国の古代文明の話で、まだ事実関係もあやふやな話らしいんだが……」

 という建前で、ゼクレスの情勢に少し触れてみた。  厳しい身分制度に支配された国。万民平等の世を目指した王自らの改革と、その失敗。そして後を任された王太后による、より厳しい階級制の制定。

「……王太后は気位の高い女性だったらしいから、貴族優位の政策は彼女の望み通りだったんだろうが……仮に彼女が王と同じ理想家だったとしても、できることは同じだっただろうな」

 と、私は自説を展開する。

「反発する貴族階級を抑えて国を安定させようと思ったら、他に方法は無い……平等を目指した王の行動が巡り巡って更なる格差社会を招くとは、随分な皮肉だろう?」

 右に行き過ぎれば左に、左に行き過ぎれば右に。人の世は振り子のように揺れ動く。それを御し得てこそ名君と呼ばれるのだが……

「一体どうすれば正解だったのか……シリル先生の見解を聞きたいな」

 と、私は青年学者に水を向けた。  ……返事が無い。首をかしげる。視線で促すも、まるでただのしかばねのように無言のままだ。
 そして私はようやく、彼の眉間に刻まれた深く太いシワに気付いた。リルリラが私の背ビレにしがみついたのは、今度は照れからではない。
 歯を食いしばるシリルの形相からは、先ほどまでの貴公子然とした余裕が失われ、こめかみには脂汗さえ流していた。瞳にはいつか見た空虚が再び宿り、その奥から、底なしの闇が世界を覗き込んでいた。

「シリル……?」
「……ああ、すまない。旅の疲れが出たらしい」

 彼は瞳を閉じ、額に手を当てた。瞼を擦り、汗をぬぐうと闇は消えていた。
 シリルはどこか虚無的な表情で海を見つめていた。日が沈み始めた。 

「さっきの話だけど、政治には興味が無いよ」

 波模様の夕陽が海面に揺れる。海鳥の影が横切った。

「僕は美しいものを見るためにここに来たんだ」

 フム、と私は腕組みした。

「政治は美しくない、か」
「辛いだけさ」

 首を振る若き学者の顔は既に、世間を倦む隠者のそれだった。私とリルリラは顔を見合わせた。彼は続ける。

「ヴェリナードの王子は、どうして王になりたいんだろう」

 沈む夕日を見送る波間に、白亜の海上都市が見え隠れする。夕陽を照り返す貝殻仕立ての城壁がひときわ強く光を放った。  その輝きから目をそむけるように、彼は俯く。

「王なんて辛いだけなのに……。逃げ出したいとは思わないのかな」

 シリルは全てを知り尽くしたような疲れた顔で、足元を見つめていた。

(続く)
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