度重なる戦闘を経て傷だらけになったクエドの砦に、傷だらけの戦士達が集う。
満身創痍であった。
「まあ砦の方は元々ボロボロですけどね」
ガーディアンの一員、プクリポ族のプリゼーラ嬢が肩をすくめる。
1000年もの間、守護騎士団は魔神の眷属と戦い続けてきた。
この砦はヴェリナード建国後、彼等の志に感銘を受けた時の国王が寄贈したものだというが、それも今や築数百年。
「改修に改修を重ねて誤魔化してきましたけど、こんなことなら建て直しておけばよかったですよー」
「ま、予算の都合もあるだろう」
「あー、まあそうですねー」
隣に座り、しばし他愛もない雑談にふける。出会って間もないが、肩を並べて戦った者同士、信頼と気安さが生まれるものだ。
守護騎士団の他の面々やカンティスも加わり、ちょっとした座談会になった。
ガーディアンは世界各地から選ばれた精鋭だけあって、それぞれが経歴も違えば性格も違う。
ベテランのドワーフ、トオチャ氏は寡黙だが貫禄のある人物。最年少のエルフ、セツラン少年は少々気負いすぎのようだ。
私と同じウェディもいる。浮気した恋人に逆襲する為にガーディアンを目指したという異色の経歴を持つルーヤ嬢だ。
「そして私達を束ねるのが、あのダンディなダンディオ団長です」
プリゼーラはアーベルク団長と打ち合わせ中のダンディオ氏を指して言った。
屈強なオーガの肉体に、柔和な微笑と品の良い眼鏡を上乗せした好漢である。
戦闘は勿論のこと、各国との交渉、団の統率、新人への教育まであらゆる仕事を率先して行う勤勉さに団員の信頼は篤い。
跳ねっ返りのルーヤ、頑ななセツランも、彼については口を揃えて褒め称える。
唯一、団長と同期のトオチャ氏だけは苦笑して首を振った。
「アイツも過去には色々あったんだ。持ち上げすぎると、返って気を遣わせちまうぞ」
カンティスがピクリと眉を動かした。
団員はダンディオ氏の過去を聞きたがったが、そこに邪魔が入った。
来客である。プリゼーラ嬢がポンと手を叩いた。
「そういえば、キリカ修道会に支援を要請してたんでした!」
彼女は跳ねるように入口へと駆けて行った。
扉を開けると、薄暗い砦の中に光が差し込む。
現れた人影は、逆光となって良く見えないが丁寧に一礼し、こう言った。
「こんにちは! キリカ修道会の方から来ました!」
私はその声に、聞き覚えがあった。
*
「……どうしてお前なんだ」
私は憮然とした表情で言った。
「それは私が、キリカ修道会所属だからです!」
リルリラは得意げに胸を張って返した。私の旅の仲間であり、カミハルムイ出身の僧侶である。
こんな所で会えるとは、思ってもみなかった。
が、それはあちらも同じのようだ。
「ガーディアンの本部にミラージュがいる方が不思議なんだけど?」
「……色々あってな」
「そっちの人も?」
リルリラはカンティスの顔に気づいたようだ。天使は少し戸惑ったが、おうむ返しにこういった。
「色々あったのだ」
エルフは思わず噴き出した。
「ところで、その衣装は?」
私はリルリラの見慣れない衣装に首を傾げた。いかにもエルトナ風のキモノらしいが、ゆったりとした袖と袴はミコ・プリーストの正装にも見える。
「あ、これいいでしょ!」
リルリラはヒラヒラと裾を揺らした。
「若い頃のエルドナ様がこういうの着てたんだって! 今、キリカ修道会から販売中!」
エルフはその場でクルリと一回転した。どうやら近頃、エルドナ神の幼少期の絵姿が出回っているらしい。
出所不明だが……カンティスに目をやる。天使は肩をすくめた。
「かわいいよね~、エルドナ様。あ、フィギュアも出たんだよ」
「せめて神像といえ、神像と!」
「売り上げは良好です。信者拡大!」
「そういう信者でいいのか……?」
私は額に手をやる。信仰とは何だろう。
神に仕える天使は、実に微妙な顔つきでその話を聞いていた。
「次はギュッとくんも出ないかな。ギュッとエルドナ様。あ、ついてクンも欲しいかも」
「そういえば……」
と、カンティスが何かを思い出したように手を打った。
「エルドナ神が初めて天使の前に姿を現した時、お披露目会場が"カワイイ"の大合唱に埋め尽くされたという古い記録があったような……」
「あー、それはそうなりますね~」
うんうんとリルリラが頷いた。
「天使さまも人もその辺はおんなじですよね」
エルフはニコニコと天使を見上げた。
カンティスは、またも複雑な表情で唸るのだった。