試食会当日。
広場は大勢の市民でにぎわっていた。
石畳を踏みしめる老若男女の靴の数々。見事な刺繍の施された布飾りが広場を彩り、荘厳なるアマラーク城の赤屋根がそれを見下ろす。
私は警備役として監視台に立ち、開場までしばらくの間、高所からの眺めを楽しんでいた。

石壁に包まれた城塞都市。無骨な城壁の内側に、刺繍と布飾りで鮮やかに彩られたアマラークの城下町が広がる。市場では鮮やかな絨毯の上に商品が並び、袖の長い衣服を薄布で飾った夫人たちが今日の献立に頭を悩ませる。ファラザードのバザールを思わせる光景だ。
聞くところによればこのタービアに定住する以前、アマラークの民は遊牧民として各地を転々としていたそうだ。その時代の伝統文化と、このタービアで発見された堅牢な遺跡……現アマラーク城とが融合し、今のアマラーク王国がある。人々の頭を覆うターバンや頭巾も、遊牧時代の名残である。
そして私もこの国に合わせて、ちょっとした衣装替えをしていた。
「あなたのヒレは目立ちますから、こういうものをつけてはいかがです?」
と、ライハーナに渡されたのがこの頭巾である。

確かにこれならばヒレが目立たない。頭巾の内側にうまく隠せるようだ。
だが一つ問題がある。
あまりに似合わないことだ。
「ファッションショーではないのですけど」
「私にも多少のこだわりというものがある」
そこでかつて使っていた、異国風のコーディネートを引っ張り出してきた。頭部を覆うターバンに、ゆったりとした布で覆った軽鎧。アマラークにも溶け込むはずだ。

「少々物騒だが……警備役ならこれくらい威圧感があってもいいだろう」
ライハーナは何も言わず、にっこりと微笑むだけだった。
*
「ハイ、3列で並んでくださ~い!ちゃんと全員分ありますからね~!」
と、声を張り上げるのはリルリラだ。何人かの女性客が「カワイイ!」と声を上げた。また子供だと思われているのだろう。エルフが口をとがらせるのがここからでもわかった。
ニャルベルトは調理場の外の警備。ドワーフ達もテント内で作業に従事し、来場客の誘導と給仕役は城から派遣されたメイドたちだ。ライハーナもすました顔で客を案内している。
幸いなことに、料理は好評であった。オーブン焼き、パスタやサラダ、シチューにスープ。サバ缶を利用したレシピの数々はアマラーク民の口にも合うようだ。
よく見れば、訓練場で見た子供たちの姿もあった。私は彼等にそっと手を振ってみたが、料理に夢中になっている彼等には届かなかった。評判が更なる客を呼ぶ。石畳を叩く靴の数はさらに倍増したようである。
ライハーナがテキパキと指示を出し、メイドたちが整然とそれに従い、客を捌く。ドワーフ達は積み荷から追加の食材を下ろす。全ては順調に進んでいるように見えた。
そして会場の熱がピークに達しようかという時、事件は起こった。