かがり火がチリチリと音を立てる。石畳を赤々と灯し、ターゲット人形の影を揺らす。
物言わぬ案山子は手招くようでもあり、嘲笑うようでもあり、その実、圧倒的に無表情であった。

少年は彼とのにらめっこをしばらく続けていたが、やがてその無意味さに思い至ったようだ。
彼はおずおずと影から姿を現す。そして所在なさげに左右に目を揺らしながらジーガンフの元へとたどり着いた。
師範は岩のような体を振り向かせ、正面から少年を見つめた。

「来たのか」
「うん」
「一人か」
「うん」
彼は大きく息を吐き出した。小さな拳を握り締める。
「みんなはもう行くのやめようって言ってた。どうせ大人は裏で汚いことしてるって」
そして彼はキッとジーガンフを見上げ、その瞳を凝視した。大きな男を。
その男は瞳を揺らさず、ただまっすぐにそれを受け止めて問いかけた。
「お前はどう思う?」
「……わかんない」
少年は首を振った。
「でもここでやめたら、かっこ悪い気がしたから」
「……そうか」
武闘家は静かに見下ろした。己を見上げる瞳を。揺るがぬ眼差しを。
そしてターゲットに向き直ると、巨体を唸らせる。鋭く回転した腰が風を薙ぎ、回し蹴りが巻き藁を揺らした。蹴撃の軌跡にほのかな光が宿る。「気」の光条が。
少年の瞳がその軌跡を焼き付ける。
「歩んだ道は己を裏切らん。俺にできるのは自分の足でここまで来た奴に、俺の知ってることを教えることだけだ」
「はい」
少年はその隣に立ち、低く腰を落として拳を握った。
「ミラージュ~!」
と、門の方からリルリラの声が響いた。私を呼びに来たらしい。試食会の後始末に輸出品の整理、これでも忙しい身なのだ。
私はジーガンフに軽く会釈し、背を向けた。最後にちらりと少年の拳に視線をやる。地下訓練場の影の中、ほのかに光るものが視界の端に紛れ込んだ。
「私はあの少年に先を越されるかもしれんな」
私はリルリラに軽く笑いかけ、道場の門を跨いだ。
「ン……?」
と、私は足元に違和感を抱き、もう一度振り向く。
よく見れば、門の側に数名の子供たち。赤毛の少年と同じように躊躇いがちに中の様子を窺っていた。
「さっきからずっとなんだよ」
と、リルリラ。私は笑いがこみあげてくるのを抑えきれなかった。
らせん階段を上る。壁に並ぶランプが影をくるりと回転させ、道場から響く掛け声が徐々に遠ざかる。だがその数が少しずつ増えていくのを、私の耳は確かに捉えていた。

<了>