機械の鳥が人形の町に朝を告げる。
何が変わらずとも時というのは流れるもので、キャラバンの旅立ちの日も近づいてきた。
私は市場に張り巡らせた飾り布を撤去する。
慣習的に市場に集まってきた住民たちも、色あせた広場の様子にちょっとため息をついた。どこか白けた風が吹く。寂しくなるなあ。そんな声が聞こえてきた。祭りの終わりである。
「そう嘆くなしょくん」
と、芝居がかった仕草で彼らに見栄を切ったのはナブレット団長だった。鮮やかなピンク色のタキシードがひらりと舞う。
彼は改めて広場を大きく見渡すと、マジシャンのような手つきでステッキを回し、石畳を叩いた。
「しばしの別れだ! 次に来るときは、俺の自慢のサーカス団を連れてくるぜ!」
どっと歓声が上がる。プクリポは細い目に笑みを湛えて拍手に応えた。私としては、目を丸くするしかない。さりげなくそばに寄り、小声で囁く。
「初耳ですが……?」
「おう。初めて言ったぜ」
団長はニヤリと口角を上げる。そしてとっておきの構想を語り始めた。すなわち……
「サーカス団のゼニアス巡業……ですか」
「そういうことさ」

サーカス団を連れて、ムニエカをはじめとしたゼニアス各地を巡る。この旅の間、ずっと練り続けていた計画なのだという。
早くも広場の一角に指さし、あのあたりはサーカステントを立てるのにちょうどいい、などと目星をつけ始めた。どうやら本気らしい。
「市場でも売れてたのは本やら楽器やら遊戯盤だろ。ここは娯楽に飢えてんのさ」
どうも、その前提で輸出品の売れ行きを監視していたらしい。とぼけた顔をしているが、サーカスの経営者にしてオルフェアの町長。彼の目線は高かった。
「向こうの嬢ちゃんたちもいいもの見せてくれたしな」
プクリポ族の丸い顎がひょいと荷馬車の方を示す。帳簿を確認していたリルリラとエステラがそれに気づいて首を傾げた。隣ではエレインと宿屋の女将が談笑しているのが見える。アーリフとオネットがチュピちゃんを追いかけて、その付近を走り回っていた。
「町の連中も外からくる奴らを嫌がってない。少なくとも俺にはそう見えたね」
「なるほど」
私は深く頷き、プクリポを見た。
「あなたはそれを確かめに来た」
「そいつはご想像に任せるぜ」
ナブレット団長は煙に巻こうとするが、私はもう一歩だけ踏み込んだ。
「しかし意外でしたよ。彼らの物語はもう終わっている……報告書にそう書き残したのはあなたですから」
「物語にはエピローグって奴もあるんだぜ」
団長は呵々と笑った。そして町を見る。鎧の婦人が調査員からリターナーモアの羽毛を受け取る。子供たちがアストルティアの絵本に頭を突き合わせる。雲は流れる。
「……大事なのは、あいつらがどうしたいかさ」
それに、と、彼は空を……いや、さらにその向こうを見上げてシルクハットのひさしを上げた。
「終わりが見えてても、最後まで笑ってたやつもいる」
彼の細い瞳はここには無い何かを映し、一度だけ大きく揺れた。彼の手にしたロケットにの中に、豪奢なドレスを着たプクリポ女性の姿がかすかに見えた。アルウェ王妃。予知の力を持つ王妃にして、今は亡きナブレット団長の妹。

「ちょっとだけ、そいつを手伝ってやりたくなったのさ」
彼はシルクハットをかぶり直し、粋な笑いの一つも浮かべただろうか。荷馬車へと向かう彼の背中は小さく、そして大きかった。