
硬いブーツが山肌を踏みしめる。靴底に不揃いな感触。道ならぬ道。霧深い樹林をかき分けて、私は足を踏み出した。細く、背の高い木々の間を荒涼とした風が吹き抜ける。
獣道か古山道か、おぼろな道を見出しては踏み固め、私は後続を先導する。汗が首筋を伝い、背びれへと流れた。
やがて樹林の先に開けた岩場が見えた。私は後続を立ち止まらせ、素早く周囲を見渡す。湿った風は小川の匂い。小鹿の群れが谷間を駆けていくのが見えた。岩の下で草をはむウサギたちにも警戒の色は無い。
「オーケイ、周囲に魔物なし!」
私は大きく腕を振りながら後ろに声をかけ、岩場へと降り立った。シルクハットをかぶった猫が山道を滑り降り、続いてエルフが軽やかに舞い降りる。
「ここ、段差ありますよ~。ゆっくり、気を付けて~!」
エルフはさらに後方、木の根と岩肌に足を取られている青年に注意を促す。彼は四苦八苦しつつ頷いた。
同行者を待つ間、私は双眼鏡を取り出し、地形と地図を見比べた。ゼニアスの地図はいまだ作成途上。地図の空白を少しずつ埋めていくのも調査隊の仕事だ。
だが、今回は仕事でここに来ているわけではない。

「このあたりのはずだが……」
私が首をひねると、肉球がその隣にもう一枚、地図を並べる。
「あそこがこの辺だニャ?」
猫の広げた地図は、補修されてはいるもののかなり古い。滲んだ等高線と川を示す青いラインを己の視界と重ね、二つの地図を見比べる。猫と帽子が地図上に額を突き合わせる。そこに長耳がひょいと加わる。
「で、ここが目的地だよね」
エルフが指さすのは古びた地図の赤い印。その指が地図をまたいで眼下の景色に伸びていく。
「ってことは、あっちの方……」
崖沿いの道を指さす。我々は頷いた。
追いついてきた青年が荒い息を吐きながら笑みを浮かべた。
「よ、ようやく"お宝"に到着ですね……!」
厚手の服にブーツと背負い袋。即席のサバイバル・ウェアーに身を包んだ彼の名はスィーテ。いかにも荒事には不向きな人当たりの良い笑顔。身のこなしも冒険慣れとは程遠い。何しろ本業は宿屋である。
だが慣れない冒険に肩で息をしつつも彼の表情は明るかった。
「宝の地図、本物だったんですね!」
と、無邪気な笑顔を浮かべたものだ。
もっとも、我々だって人のことは言えない。猫魔道のニャルベルトも、エルフのリルリラも、高揚を隠しきれない様子だ。
宝の地図を片手に木々をかき分け、お宝さがし。少年時代に読んだ冒険譚そのものの景色。あまりに典型的すぎて苦笑いすら湧いてくるが、これぞ冒険者の原風景である。
茜色に染まり始めた空に、一風変わった星が浮かぶ。ここはゼニアス、ラランブラ山道。
なぜ我々が異邦の地ゼニアスで宝探しをしているのか。
……話は一巡りほど前に遡る。