
「コッケン様グッズ?」
私は目を丸くした。黄金の鶏が目の前で光を放つ。
スィーテは満面の笑みを浮かべ、細工物を並べ始めた。小物や彫像、布飾りに網細工。いずれもモチーフは鶏。
ケージで眠る鶏たちも、ちょっと首を傾げたのではないか。
「コッケン様はメネトの守り神なんですよ」
宿屋は赤い鶏冠を撫でながら言った。悪夢から村人を守る精霊のようなものらしい。言われてみれば村のあちこちに鶏を象った飾りがある。
「そっか」
とリルリラは頷く。
「この村には神様がいるんだね」
ランプに照らされたエルフの表情はどこか嬉しそうだった。ここはメネト。グランゼニスが神去る以前から眠り続けていた村だ。
「そこで! 霊験あらたか、ご利益満載のコッケン様グッズを作ってこの村の名物にしようと!」
スィーテはぐっと拳を握り締める。名物で観光客を呼び寄せ、ついでに宿にも千客万来。商売繁盛間違いなし!
掌の上で、コッケン様は呆けたような顔を浮かべていた。
「観光客って言ってもニャー」
猫が少し白けた声をあげた。私もテーブルに肘をつき首を傾げた。
滅びの大地ゼニアス。今のメネトに観光業が成り立つような基盤があるだろうか。果たして誰を呼び込み、誰に売り込むつもりなのやら……

「いえ、他にも生き延びた街があるって聞きますし、あなた方の故郷でもこっちの地方が話題になってるんでしょう? コレを目当てに人が来てくれればですね!」
スィーテは興奮気味に語った。なにやら壮大な計画のようだ。私はふと、世界宿屋協会の入れ知恵を疑った。旅の途中で知り合ったコンシェルジュの顔を思い出す。
うまく乗せられているのでなければいいが……。
「しかし」
と、私はコッケン様をテーブルに座らせる。
「土産物にするなら量が必要だろう」
「そこなんですよ」
スィーテは腕を組んだ。
「元手にアテはあるんです。ただ、ちょっと行き詰ってまして……」
「アテって?」
リルリラが首を傾げる。彼は得たりとばかりに懐から一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
バサリと広げる。古ぼけた地図の中央に、赤い×印。
「我が家の倉庫に眠っていた……宝の地図です!」
猫とエルフが瞳を輝かせる。多分、私も。
……こうして、我々の"宝さがし"が始まった。
*

探索の第一歩は、地図自体の解読……いや、修復だった。何しろ相当の年代物で、大部分がシミやカビに覆われていたのである。
この状態でわかるのは「ラランブラのどこかに何かがある」ということだけだろう。
「何もわからんのと同じだな……」
「しつこい汚れ、ガンコなシミ……そういう時は!」
と、リルリラが紹介したのはドルワーム研究院出身の調査隊員、デイゴロだった。

彼は物質の分解作用に関する研究を専門に行っている人物で、ゼニアスで発見された未知の成分を研究するため、調査隊に派遣されてきた。
その研究成果を応用すれば、万能洗剤の出来上がり、というわけだ。
色あせた地図がみるみるうちにかつての姿を取り戻していく。こびり付いた汚れと等高線が分離され、シミの向こうから河川と谷が鮮やかに蘇る。
「まるで魔法ですね」
「魔法じゃないから、誰にでも使えますよ」
目を輝かせるスィーテに、研究員は瓶を振りながら胸を張るのだった。
しかしよくこんな人物を知っていたものだ。私がリルリラに尋ねると、エルフは唇を尖らせ、じっとりした視線を私に浴びせた。
「そりゃーもう、お世話になりましたから」
「どういうことだ?」
首を傾げる。エルフは拗ねたように私に羽を向けた。
「こないだ服が汚れた時、助けてもらったの!」
ウッと言葉を詰まらせる。というのも、彼女の新品の服を汚してしまったのは、私だったからだ。
私はその日の夕飯を奢ることになり、宿屋と猫も何故かその恩恵に預かった。おかげで私の財布はちょっぴり軽くなった。
「まあいいじゃないですか。お宝で埋め合わせれば」
舌包みを打ちながらスィーテが笑う。この男、なかなか良い性格をしている。
「どのくらい分け前があるかわかんニャいけどニャー」
猫が笑う。実際、古地図に記された宝など、金銭的な価値は怪しいものである。我々だってさほどアテにしていないし、別に付き合う義理もない。
にも関わらずこうしてスィーテに協力しているのは、やはり宝探しというシチュエーション自体に心惹かれるものがあったからだ。
第一、最近は調査隊としての任務ばかりで少々肩が凝っている。ここらで現地調査の名を借りて、気楽な探検を楽しんだって良いではないか……。女王陛下もお赦しになるであろう。多分。
ゼニアスの木々が、呆れたように葉を揺らしていた。