こうして地図を蘇らせた我々は再びラランブラ探索に戻る。
調査隊の作った地図はレストリアからメネト周辺までを網羅していたが、その中に該当しそうな地形は見当たらなかった。となれば未調査の北部地域が怪しい。
スィーテの土地勘に期待したいところだが……
「うーん、前に来た時と景色が違いますねえ……」
「ずっと眠っていたわけだからな……」
数千年単位で時が流れれば地形も変わる。山というのは我々が思うほど不変の存在でもないのだ。
切り立った尾根が崩れ、なだらかな盆地が隆起する。木々は茂り、また枯れ果て、川は大地を削りながら悠久の時の中を流れ続けるのである。
メネト村がそれに巻き込まれなかっただけでも僥倖というべきだろう。
結局、手探りの探索となった。
いくつかの空振り。思わぬ副産物との出会い。多少のトラブル。
その果てに、我々はようやく地図と一致する地形にたどり着いた。
「ここが目印ってことは……」
「十中八九、あの洞窟だろうな」
指さし確認。岩山にぽっかりと空いた横穴。
そろそろ冒険もそろそろ大詰め、というわけである。

*
開けた岩場に簡易的なキャンプを作る。少々風が強い。石を積んで焚火を守り、それを囲むように腰を下ろす。スィーテが汗をぬぐい、水筒の中身を口にした。
腹が減っては戦はできぬ。宝の隠し場所と思しき洞穴を見つけた我々が行ったのは、休憩と腹ごしらえだった。
「ここにもつけとこうか」
と、リルリラは手近な岩に独特の結び目で束ねられた縄を巻く。目立つように鮮やかな赤で染められた麻縄。冒険者の間でよく使われる目印だ。
「岩に巻くと、しめ縄みたいだけどね」
これはエルトナ人独特の感性である。
私が仕上げに縄に触れると、目印がほのかに光を放つ。ライトフォース。一日中とはいかないが、しばらくはもつだろう。これも旅人の知恵である。
ニャルベルトが缶詰を開け、取り分ける。食事となった。携帯食だから豪勢とは言えないが、疲れた身体には干し肉の一切れがごちそうになる。
「空腹は最大の調味料って、本当ですねえ」
スィーテはしみじみとした表情で頷き、凝縮された旨味を噛みしめた。リルリラが焚火で湯をわかし、黄金色のスープを振舞う。疲れた体にほどよい甘みが染み渡る。
「地図もだいぶ埋まってきたな」
と、私は石を重し代わりにして地図を広げる。我々の足跡がそのまま、ラランブラ北部の簡易的な見取り図となる。調査隊にとっては、この地図そのものが宝のようなものだ。
「だからといって、これこそまさに『宝の地図』なんてオチは認めませんからね!」
スィーテは熱弁する。
「ちゃんとお宝を持ち帰りますよ!」
「宝が金銀財宝とは限らんぞ」
私はあえて茶化すように肩をすくめる。
「例えば、そう……メタルキングの群生地ということもある」
天星郷で聞いた太古の伝説に、そんな話があった。見えざる魔神の地図。発見者の名もまた、今は伝説の一部だ。

リルリラがくすっと笑った。
「宝箱の中がメタルだらけだったらどうする?」
「そりゃ、冒険者の方々にはお宝でしょうけど、困りますねえ」
「これを機に転職というのはどうだ?」
「私は宿屋が天職ですから」
スィーテは苦笑する。そして彼はふっと瞳の力を緩めながら、揺れる焚火を見つめた。
「……気づいちゃったんですよねえ。目が覚めてから、誰もメネトにやってこないって」
パチパチと薪が音を立てる。風が通り過ぎると、空は黄昏の色に染まっていた。
「なんとかお客さんを呼びこまなきゃ宿屋の意味がないし、村だって困るんです」
腰かけた固い岩に、彼自身の体重と背負ったものの重さが圧し掛かる。
交易が途切れれば、メネトのような山村は供給の多くを失うことになる。ロナ長老が懸念していたように、塩などの生活必需品は死活問題だろう。一獲千金を夢見る宝さがしにも、切実な事情があったわけだ。
「見つかるといいな」
「ええ」
スィーテは瞳を閉じ、スープを飲みほした。