
迫りくる太刀筋を、私の剣は辛うじて受け止めていた。赤く輝く私の剣が古刀の一撃に震える。空を裂く剣閃が、咆哮する野獣のような音を上げる。
私は咄嗟に飛び退いてそれを受け流した。受け流してなお、右腕の奥にしびれるような痛みが残った。冷汗が一筋。もし無理に押し返そうとしていたら、剣ごと私の腕が吹き込んでいたかもしれなかった。
『我、神の剣なり』
レパルドの豹頭から思念が響く。
『世界に破壊を! 神の怒りを受けよ!』
二の太刀、三の太刀。レパルドは続けざまに刀を振るう。盾で身を守りながら後退するしかなかった。受け流した刀が狭い洞窟の壁を粉砕する。
「ミラージュ!」
リルリラが加護の術を展開しながら、焦燥の声をあげる。斬撃の流れ弾が壁を砕くたびに、天井から土砂が流れ落ちる。私の脳裏に最悪の想像が浮かんだ。
……このままでは崩落する。
レパルドはお構いなしだ。狂乱の剣舞が暗闇にひらめく。
「撤退だ!」
私は叫んだが、それも厳しいことはわかっていた。目の前に人外の魔剣神。背を見せた瞬間に魔剣は壁ではなく我々を粉砕するだろう。一瞬でも怯ませなければ、逃げる時間すら作れない。
『破壊を!』
なおも思念が響く。闇の中、土砂が降り注ぐ。
「世界の前に、この洞窟から破壊しようというなら……地道な男だが……!」
あえて軽口をたたいて自分を落ち着かせる。手はないか。考えろ。時間はない! 言葉の断片から思考を組み立てる。洞窟。崩落。剣神。刀。神。ゼニス。世界。破壊。
……世界?
斬撃の雨の中、私は豹頭の男を見た。その瞳に宿る虚ろな光を見た。封印。時間。ゼニアス。破壊。
残忍に輝く刃を受け流し、一歩退く。そして私は反撃の太刀の代わりに、脳裏に浮かんだ言葉を推敲の暇もなくぶつけていた。
「残念だったな! レパルドとやら!」
牽制の剣を鼻先につきつけながら私は残酷な言葉を放つ。
「世界なら、とうに滅びたぞ! お前が眠っている間にな!」

まるで剣先から放たれた魔弾が豹頭を貫いたかのように、彼はぐらりと揺らめいた。一瞬の硬直。
「今だ、ニャルベルト!」
「ニャーーー!!」
私は身をひるがえし、射線を開ける。後ろで構えていた猫魔道が、私の指示通りに火球を飛ばす。岩をも溶かす灼熱の弾丸! レパルドの反応は一瞬遅れた。私は追撃のために助走をつける。ここで一太刀入れて、撤退の時間を稼ぐ!
だが。
豹頭が目を見開く。唸るような音を上げて、魔剣が暗闇を舞う。
レパルドは気合と共に刀を振り上げた。
爆音を鳴らして火球は弾かれ、天井を直撃する。脆くなった岩天井を。
「いかん!」
私は即座に足を止めた。
洞窟が揺れる。爆発と共に岩雪崩がレパルドを襲う。さしもの剣神がよろめく。
だがそれを見届ける暇はなかった。崩落が始まる。私は彼に背を向け、走り出した。
「巻き込まれるぞ!逃げろ!」
私が声をかけるまでもなく、猫とエルフは駆けだしていた。入口はそう遠くない!
地鳴りと土煙、頭上からこぼれ落ちる小石が帽子を叩く。石壁が土砂となって崩れ、流れる。判断が遅れていれば、生き埋めになっていただろう。命からがら、我々は外の光を目指した。脱出!

まばゆい光の風が網膜を打つ。
そして自分の顔の横で耳ひれが揺れるのを感じた時、私は自分が助かったことを知った。