
「調査?」
宿屋スィーテが首を傾げる。
「まあ、すぐわかるさ」
私はニヤリと笑みを返した。
研究員たちが動き出す。
この洞窟には野生動物の出入りした跡があった。あの魔剣神レパルドがうろついていた頃からだ。そしてあの戦いの直後にも、野兎の姿があった。
それがずっと気になっていた。
普通、危険なものがうろつく場所に動物は出入りしない。
もし、危険を冒してでもやってくる理由があるとすれば……?
研究員が近づくと、野兎は耳を立て後ろ脚で床を叩き始めた。リルリラがレンジャー訓練の応用でそれをなだめる。
「ちょっとお邪魔しますね~」
エルフは動物たちをかき分けて、彼らの集まる岩にしゃがみこんだ。ニャルベルトが匂いをかぎ、研究員が岩をひとかけら削り取る。デイゴロは頷き、呟いた。
「脈アリですね」
試験用ビーカーへの格納。薬剤反応の確認。それにピッケルによる断面の調査。村人たちは首を傾げ、見慣れない作業を眺めていた。
一通りの試験を終え、デイゴロは私に振り返った。親指を立て、サムズアップ。
私は同じものをスィーテに返した。宿屋はわけがわからないという表情である。私は笑みを浮かべる。
「お宝が見つかった、ということさ」
「宝……?」
スィーテはキョロキョロと周囲を見回す。
デイゴロはビーカーを水平な岩の上に置いて顔を近づけた。白い結晶が浮かび上がる。
「塩の成分です。間違いなく岩塩ですね」
動物たちが洞窟に出入りしていた理由がこれだ。山岳地帯において塩が貴重なのは野生動物にとっても同じである。本能的に、この周辺の岩が塩を含んでいることを知っていたのだろう。
「塩だって!?」
村人の一人が声を上げた。ウサギたちがチロチロと岩を舐める。デイゴロは頷いた。
「岩塩坑……と言える量かどうかはまだわかりませんが、少なくともメネトの必要量を賄うぐらいには期待できると思いますよ」
村人たちの顔に明かりが灯る。続いて、喝采。なまじの財宝より嬉しい報せに違いない。
スィーテは呆然とした表情で宝の地図を広げた。
「宝探しが、こんな発見に繋がるなんて……」
地図が震える。信仰を伝える地図。
首のない天使が、にっこりと微笑んだ。

*
こうして、我々の宝さがしは大成功に終わった。
洞窟が塩坑として整備されるには、まだ時間がかかるだろう。道中の魔物や道の整備も課題だ。だがこれは未来につながる課題である。風の噂では、アマラークのリズク王もラランブラの塩に興味を持ったという。
「村が少し明るくなった気がするんですよね」
スィーテはしみじみと語った。コッケン様グッズの大量生産はどうやら見送ることになったようだが、せっかくだから、とサンプルをいくつか分けてもらった。

「巡り巡って、これもコッケン様のお導きかもしれませんね~」
のどかな山村に、ニワトリの鳴き声が響き渡った。我々は宿の食堂でエッグシチューに舌鼓を打ちながら、それを聞いていた。報酬代わりにしばらくは無料である。
「たまにはこういうのもいいよね」
リルリラが笑みを浮かべ、ニャルベルトがお代わりを注文する。私はポテトサラダを楽しみつつ、村の様子に目をやった。
坂道の村に荷車が行き交い、その向こうで鶏冠が揺れる。柵の向こうにはジャガイモ畑。天使像が静かにそれを見守る。
口の中には、柔らかくもしっかりとした歯ごたえ。
これは小さな村の、小さな冒険の記録である。
(了)