戦いの後処理が終わると、木々の上には星が輝いていた。
村の広場。さらさらと流れる小川の声を子守歌に、ニャルベルトがウトウトと舟をこいでいた。リルリラは猫に毛布を掛け、大きく伸びをした。
「猫ちゃんもミラージュもお疲れ様~!」

背中の羽を必要以上にヒラヒラとはためかせながら、彼女は跳ねてみせる。お気楽を装って鼻歌など口ずさみながら柱に体重を預ける。
「いや~、今日もどうにか無事だったね~」
にっこりと私に笑顔を向ける。その笑顔が、かえって痛々しかった。
彼女はいつもこうだ。疲れた時、気分がささくれ立った時、あえて能天気な笑顔を作ってみせる。その笑顔に何度救われたかわからない。
だからこそ、いま彼女が浮かべた笑顔が、少し別の種類のものだと気付いてしまった。
……いや、気づいたのではない。最初からわかっていたのだ。
「リラ」
私は可能な限り優しく、彼女に声をかけた。エルフの細い体がぴくりと震えた。
私は少し身をかがめ、彼女の瞳を見つめる。
「……リラ」
もう一度、その名を繰り返す。リルリラは観念したように息を小さく吐いた。
「私の前で、作り笑いはしなくていい」
「ミラージュ……」
小柄な身体が、更に一回り小さくなった。俯き、項垂れ、体を震わせるその姿は、変化の呪文で妖精に扮していた頃よりもさらに小さく見える。

夜風が、小川を波立てる。小さくしぶきが上がる。
「私……」
と、エルフは顔を上げた。歯を食いしばった顔を。
「……悔しいよぉ……!」
私はその頭にそっと手で触れた。震えが伝わってきた。
リルリラの手が私の体に触れる。強く、こぶしを握った。
あのアスバルの告白……彼自身とエステラの創失に関する話を聞いて以来、彼女はずっと平静ではなかった。明るく振舞っていても、合間、合間に肩を落とす。無理が見え透いていたのだ。
リルリラとエステラは昨日今日の仲ではない。ナドラガンドでの長い旅を通して、絆を育んできた二人である。
アスバルだって、出会った頃のシリルの名で呼び続けるのは、彼女にとって特別な意味があるからなのだ。
そんな彼らを忘れていた。
忘れたことにも気づかなかった。
悔恨の二字では表しきれない不可視のナイフが、リルリラの胸を深く抉ったのだ。
「……気に病む必要はない」
私は震えるエルフの頭をそっと撫でる。やわらかい金髪がまだ震えている。
「あれはそういうものだ。私だって、気づいてなかったんだからな」
「ン……」
彼女は頷く。もちろん、彼女だってわかっているのだ。
だからこそ、感情の行き場がない。
私にできるのは、その吐き出し先になってやることぐらいだった。