
広場の小さな階段に並んで腰を下ろし、夜を流れる小川のきらめきを見つめる。ゼニアスの空を移す水面に星が流れるようだった。
その星に語り掛けるように、エルフは口を開いた。
「私さ、どっかで都合よく考えちゃってたんだろうな」
ぶらぶらと揺れる脚が彼女の心境そのものだ。私は黙って聞いていた。
「自分の周りにはそんなことは起きないとか、なんとなく、自分はちょっとだけ気づくんじゃないかとか」
大きなため息。
「全然そんなことなくってさ」
ああ、とエルフは空を見上げた。星が滲む。
「大切な友達がいなくなっても、少しも気づかなかったよ」
小さな掌が、草を探すように地を這った。石しかない。私はそこに自分の手を重ねた。冷たく、しかし熱い。
「お前のせいじゃないさ」
細い指がすがるように絡みついた。
聞けば、エジャルナでエステラの身の回りの世話をしている協団員や、アスバルの許嫁候補と目されているゼニアスの令嬢さえ、彼らの創失を認識できなかったのだという。

小さきものの想いなど一顧だにせず、有無を言わさぬ呪いが全てを消し去る。思えば、むごい。
私だって、もしも……
目の前のエルフの細く丸みを帯びた顔の輪郭を視線でなぞり、私は言いかけた言葉を飲み込んだ。見上げる瞳と目が合った。その瞳が、私の内心と同じ言葉を紡ぎだした。
「もし……」
と、エルフの唇が小さく震える。
「もしミラージュがいなくなっちゃっても、気づかなかったら、私……」
瞳の中で、私が揺れた。私の手に食い込むように、エルフの指が震えた。
彼女の頭をそっと引き寄せながら、一瞬の熱が私に与えた感情は、怒りだった。
知らず知らずのうちに、私は歯を食いしばっていた。また見ぬ敵に憤怒の吐息を漏らした。
リルリラに、こんな顔をさせるなど!
「……少なくとも私にも一つ、その呪いを憎む理由ができた」
大きく息を吐く。そしてあえて冗談めかして、隣のエルフに微笑みかけた。
「アスバルではないが、借りは返さねばならんな」
リルリラは一瞬呆けたような顔をし、戸惑い、そして呆れたように笑った。まだ熱を帯びた頬が緩み、細い指が腕をつねる。
「……そだね」
リルリラの喉が、メネトの澄んだ空気を吸い込んでいく。さらさらと、せせらぎが流れていく。少なくともこの村を守り切れば、呪いの使い手に一泡吹かすことにはなるのだ。
「よっし!」
と、彼女は再び羽をはためかせて立ち上がった。
「やろうか!」
彼女は握り拳を私の前に突き出した。不揃いな拳を私はそれに重ねる。
まだ、無理はしている。具体的な対策もない。
それでも前を向く。
目の前のことをやるだけだ。
自分自身の単純な思考に苦笑いを浮かべながら、我々は星を見上げた。
異郷の星空が、静かにそれを見下ろしていた。
そしてその数日後。
二つのものが、メネトの村に訪れた。