
ヒューザの剛剣がうなり、黒い影と拮抗する。刺客に回り込んだ私の剣がその急所を突く!
ついにゼナベスティアは回避を選ばざるを得なかった。
ヒューザの加勢は戦況を一変させた。
ヒューザが前出れば私が背後を突き、敵がこちらを狙えばその隙をヒューザが突く。神獣が大きく飛びのく。ヒューザは距離を取らせない。追いすがるように前に出る!
私はその一歩後ろから援護の呪文を飛ばしつつ、第二の刃としてゼナベスティアを追い詰めた。
「いけるぜ、ミラージュ」
「ああ」
頷きつつ、私はやはり違和感を抱かざるを得なかった。
かつて相対した神獣ゼナベスティアは、この程度ではなかった……
「合わせろ!」
ヒューザが号令をかける。迷いは後だ! 私は剣を掲げ、ヒューザと私自身の剣に理力の炎をともす。しなやかな肉体が熱を帯びて疾駆する。
走りつつ、私は背後から飛び出すようにヒューザと並んだ。
「奴は私の方を狙ってくる。右手側だ」
追いつきざま、ヒューザにだけ聞こえる声で私は囁いた。彼奴が異常な敵視を見せる、水晶の剣。それを見せつけるように宙に掲げつつ、私は跳んだ。
神獣が追う! より高く、速い跳躍!
その背後にヒューザの影があった!
「!!」
神獣の瞳が初めて焦りの色を帯びる。その顔面に、私は理力の渦を叩きつけた。フォースブレイク!
渦は一瞬で広がり、燃える剣を引き寄せる。ヒューザの全霊の剣を!
「百戦・錬磨斬り!」

剛断!
重く鈍い音と共に、ゼナベスティアの身体が歪み、爆炎が広がる。理力が渦を巻き、空を焦がす。
黒いたてがみが炎をまとい、焦熱にまみれる。
赤い瞳が輝いた。
それが私を……右腕の剣を睨みつける。
……そこまでだった。
彼は黒ずんだ影となり、爆縮するように一点に集まり、球となった。
「何だ……?」
黒い球が空へを吸い込まれていく。私はそれを見送るしかなかった。
ゼナベスティアは飛び立つ……彼の主君、女神ゼネシアの元へだろうか……?
「とりあえず、片付いたか……」
ヒューザが汗をぬぐい、剣を収める。私は……まだ剣を収められずにいた。
あのゼナベスティアが、これで終わるだろうか……?
「何だよ、納得してねえのか?」
「ちょっとな……」
「けど今は、あいつらの始末が先だぜ」
ヒューザは親指で後ろを示した。ガナン兵との戦いはいまだ続いている。防衛隊を援護せねばならない。
「そうだな」
私は頷きかけ……しかし、空に向かって向き直した。
「ヒューザ!」
警告するまでもなく、彼も空を見ていた。いずこからともなく飛来した、三つの光球を。
その一つ一つの内側に、魔狼の姿がある。
「新手だと……?」
「一匹じゃなかったのかよ!?」
球が割れる。音もなく、三匹のゼナベスティアが地に降り立つ……
その刹那であった。
木々を、山を、空を貫く大音声が響いたのは。
耳ヒレを震わせ、肌を揺らすほどの轟音。
東天を紅に染め、ラランブラ山中に幾重にも木霊するそれは……
「「「コケ・コッコーーーーーー!!!」」」

確かめるまでもない。
目覚めを告げる霊鳥コッケン。大いなる福音であった。
*
こうして、メネトの住民は無事、目覚めの時を迎えた。
三体の魔狼とガナン兵はなおも攻勢を仕掛けたが、目覚めの儀式に専念していた魔王アスバル、そして"エックスさん"こと調査隊長の加勢は戦況をいともたやすく覆した。
「借りは返すと言ったからね」
魔狼の群れに太古の魔人をけしかける魔王の表情には、余裕すら感じられる。
むろん、隊長……そしてその隣で術を操る少女もまた規格外の実力者だ。
かくして、戦いは幕を閉じる。
「おぬし達、よく持ちこたえてくれた」
少女は奇妙に貫禄のある口調で我々をねぎらった。赤みを帯びた茶色の髪がふわりと揺れる。小柄な体格と可憐な顔立ちに反して、その態度は尊大であった。

ニャルベルトが私に耳打ちする。
「あれ、調査隊の人だよニャ?」
「多分……」
私も遠目に何度か見たことがある。確か名はポルテ。ヒューザやアスバルと共に、調査隊の中心人物と目されている一人だ。
だが前に見た時は、年相応の無邪気な様子だったのだが……。
「これで星のオーラも集まるだろう」
少女は落ち着き払った様子で頷いた。
「星のオーラ? それは……」
「いや……それはこちらに任せておいてくれ」
若干の拒絶と共に彼女は私の質問を遮った。立ち入るべきではない、ということだろうか。静かに、しかし強く。その瞳には有無を言わさぬ力があった。