
「私の腕に異常が……?」
「間違いない」
と、ラキは断言した。アスバルも頷く。
「確かに妙な違和感を感じるね」
「創生の力が乱れておる」
ポルテも口々に言う。……創生の力……? 私は自分の右腕をまじまじと見つめる。いつも通りの見慣れた腕だ。
「おぬし」
ポルテはびしりと杖をつきつけた。
「腕に呪いを受けたり、大怪我を負ったことはないか?」
「ミラージュ! あの時の……!」
リルリラが悲鳴のような声と共に割って入り、右腕に飛びつく。いつかのように。
そう、あの時のように……
「ジア・クトとの決戦か……」
私の眉間にしわが寄る。

天星郷、そして魔眼の月。押し寄せるジア・クトの群れから英雄たちの"足場"を守るため、私は多くの冒険者と共に出撃した。
そこで大きな傷を負った。念晶爆弾を阻止するため、捨て身の攻撃を敢行したのだ。リルリラの処置で事なきを得たが、念晶が深々と腕に突き刺さり、しばらく療養が続いた。ゼニアス調査隊への参加も、それで出遅れたほどだ。
「後遺症はなかったはずだが……」
私は右腕を抑えた。痛みも違和感もない。突き刺さった念晶も外科的に取り除いたはずだ。私がそう告げるとポルテは首を振った。
「目に見えぬほど小さく砕けた念晶すべてを取り除くのは一流の医師であろうと不可能だ。魔術的な洗浄にも限界はある。奴らはジア・クトの気配をお主の腕に感じたのであろうな」
「そ、それで……」
リルリラが、私の腕をつかむ指にギュッと力を込めた。
「このまんまだと、何か悪いこととかあります?」
「ふむ……」
ポルテは鳶色の瞳に深く暗い光を灯した。少女の姿をした叡智が、深淵の彼方から答えを導きだそうと闇に向かって手を伸ばす。そんな光景が私の脳裏に浮かぶ。彼女は静かに唇を動かした。
「ジア・クトの念晶は憎悪や破壊衝動に反応し、爆発的に汚染を開始する。もしお主がそれらの感情にとらわれることがあれば、全身に念晶が広がり……」
「ニャ!? ミラージュ、ジア・クトになっちゃうニャ!?」
猫魔道が大口を開け、リルリラが目を見開く。ポルテは静かに言葉を続ける。
「最悪の場合の話だ。もっとも、最悪というならもっと悪いケースもあるが……」
「もっと悪い……?」
私は顔を引きつらせながらオウム返しに反問した。言葉を受けたのは白狼だ。
「ジア・クトは創失の呪いを受けた。だから念晶にも呪いがこもってる。その力が強まれば……」
「ミラージュが、創失……?」
エルフが唇を震わせる。ぐらりと揺れるようだった。

昨日の今日だ。私はその肩を支えてやらねばならなかった。自分の恐怖を、それで誤魔化す!
華奢な肩を強く握りしめ、リラに向かって頷く。己を強いて奮い立たせ、私はラキとポルテを振り返った。
「あくまで最悪の場合の話ですな? まだそうなると決まったわけではないと」
自然と言葉が丁寧になる。少女は鷹揚に頷いた。狼もそれを肯定する。
「オマエの身体、創生の力がきちんと流れてる。右腕以外は平気」
「恐らくおぬしは既に、創生の力を制御するすべを身に着けておるのだろう」
「そうか……!」
ジーガンフの武術! 私はアマラークでかの武術家に師事し、"気"のコントロールについて学んだ。
足技に関してはお墨付きをもらったものだ。だが肝心の、剣を握る腕だけは上手くコントロールできなかった。
「……てっきり手技の才能がないものと思っていましたが……」
「逆に腕以外に創失の力が流れぬよう、制御していたというわけだな」
それがなければ全身が侵されていたかもしれぬ、と少女は語る。背びれに冷や汗。思わぬところで命拾いをしていたものだ。
私はあの不器用な武術師範に、そして彼と出会った偶然の導きに、改めて感謝の念を抱くのだった。