ラランブラに風が吹く。戦場の熱はすでに冷え、冷たいものが背をじっとりと濡らしていた。
右腕をじっと見つめる。期せずしてジア・クトと、創失の力を埋め込まれた腕を。
「あのっ!」
と、リルリラが前のめりにポルテに詰め寄っていた。
「治す方法とか無いんですか? 腕自体を!」

ポルテは難しい表情で目をそらし、足元に視線を向けた。白い狼が見上げる。少し困ったような顔をしつつ、彼は返答した。
「ラキが力を取り戻せば、なんとかなるかもしれない」
「ほんとに!」
リルリラは白狼を高々と持ち上げた。さすがにラキは狼狽した様子だった。前足をじたばた。これでも神狼である。私はエルフを諫めねばならなかった。
「小さな念晶を浄化するだけなら、なんとかなる。でも、今は難しい」
と、彼は語る。女神ゼネシアに力を奪われ、万全ではない、と。
「全部終わったら、ラキのところに来て。それまではジーガンフの技を練習してれば、いきなり悪くなることはない」
私はポルテの方を見た。彼女も頷く。今のところ、それが正解ということだろう。
「私も教わりに行く!」
リルリラが勢いよく挙手する。私はようやく苦笑いを浮かべる余裕を得て、その頭に軽く手を置いた。
「お前が学んでも仕方ないだろう」
「でも!」
彼女は歯を食いしばって私を見上げる。軽薄と思われるかもしれないが、私はそれが嬉しかった。
背後に足音がした。静かに成り行きを見守っていたアスバルがもう一度杖をつく。
「……大変なことになったね」
一度失われた男は私に真摯な視線を向けた。
「でも、君は事前に手を打てる」
私はそれを正面から見返し、頷いた。彼のフィアンセと同じ思いを、他の誰にもさせはしない。
「ま、うまくやれよ」
と、ヒューザは首の後ろに手をやりながらぶっきらぼうに片目をつぶって見せた。
「もし創失しても俺が女神とかいうのを倒してやるよ。それで元に戻るんだろ?」
不敵な笑み。横目で視線をぶつけながら互いに拳を打ち付ける。それで十分だ。
「とにかくジーガンフのとこに行くのニャ!」
と、ニャルベルトが杖を掲げる。ふむ、とポルテが隊長に目をやる。
「つまり我々と行先は同じということだな」
隊長が力強く頷き、親指を立てた。
頼もしい姿だった。
*
この後、私はポルテらに付き従い、アマラークへと向かった。いくつかの手続きは、ポルテがドゥラ院長に取り計らってくれた。
アマラークもまた女神ゼネシアの攻撃を受けていたが、ジーガンフと彼の教えを受けた住民たちの奮戦、リズク王の的確な指揮、そして黒衣の騎士イルシーム郷の活躍は女神の脅威を全く寄せ付けなかった。
我々の救援がなくても、あの国は大丈夫だったかもしれない。
アマラーク城の赤屋根が、堂々たる威容を見せつける。

「強い国になったものだ」
誰かがそう呟いた。
私はジーガンフに事情を打ち明け、二度目の弟子入りを果たした。
ポルテやラキたちが女神ゼネシアと創失にまつわる事件を解決するまで、ここでアマラーク防衛を助けながら"気"……すなわち創生の力を制御する方法を学ぶ。
そのつもりだった。
だが、そうはならなかった。
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私はヴェリナードに戻らねばならなかった。それも、大至急で。
ウェナの空に暗雲が渦巻く。
大きな時代のうねりが私を、いや、アストルティア全てを飲縺ソ込もうとしていた。