「しょせん、ただの過激団体でしょ」
と、私の隣で若い魔法戦士が呟いた。まだ若い。幼さの抜けぬ十代の少年である。

「シャビー、市民運動を侮ると痛い目を見るぞ」
私はやんわりと窘めた。シャビーは堪えた様子もなく、肩をすくめてみせた。生意気盛りの少年だ。
この若さで魔法戦士団員に選ばれる可能性は二つ。若くして才を認められたか、貴族の子弟で親族のごり押しがあったか。
彼は間違いなく貴族の息子だったが、親は苦労をしなかったに違いない。歳は若いが戦技に優れ、特に弓の腕前は魔法戦士団でも一目置かれる水準にある。
「自分では戦わない素人に限って、ああいう無責任なこと言うんですよね。だいたい勇者姫がキレて襲い掛かってきたらどうするつもりなんスかね?」
軽口は少々水準を超えている。私は密かにため息をつく。手のかかる若者には違いなかった。
「しかし抗議活動がここまで巨大化するとは意外です」
と、丁寧な口調で口をはさんだのはもう一人の魔法戦士。名はトーレス。彼も若いが、シャビーほどではない。飛び抜けたところはないが、実直な男である。

「それだけ民衆に不満が募ってるってことさね。だろ、ミラージュさんよ」
更なる一人が気だるげに首を鳴らし、私に同意を求めた。眠たげなぶ厚い瞳の奥に鋭い光がある。両手を首の後ろに回したしぐさが妙に絵になる男だ。腕も長ければ足も長い。そして経験も。
彼はラミーロ。魔法戦士団の中でもベテランと呼べる一人だった。

「確かに魔界側の声明だけは納得できんだろう。だからこそ、真相を明らかにせねばならん」
私はあえて真面目くさった口調でそう言った。
我々は魔法戦士団の使者として、このグランゼドーラに派遣されてきた。相次ぐ襲撃への対応と、その背景調査が主任務だ。
都市襲撃が魔王と無関係だと証明できれば、少なくとも民衆の不満の一部は解消できる。
「汎人類主義連合は確かに面倒な連中だが……彼らと争うことが任務ではないぞ、シャビー」
「向こうから喧嘩ふっかけてきたら、どうなるかわかりませんけどね」
若いシャビーが口を尖らせ、ラミーロはおかしそうに腹を抱える。トーレスは直立不動。
一方、"大教授"ビルート総帥の演説は最高潮に達しようとしていた。
「あなたが今なお、勇者を名乗るならば! 使命を果たすべきではありませんか! さもなくば、その名を返上すべきなのです!」
返上せよ! 返上せよ! 観衆が声を上げる。
と、誰かが剣を抜き放ち、天に掲げた。歓声が倍増する。
私は目を凝らしてその様子を見つめた。壇上の大教授を取り囲む一団の中に、ひときわ目立つ男の姿があった。

巨漢。物々しいトゲつきの鎧。その肩が血のような赤に染まっているのが特に目を引く。市民団体には場違いな、戦の香りのする男だ。
「あれは、確か……」
「ムディカ・セントビー、とか言ったかね」
ラミーロが分厚いまぶたに手をかざし、呟いた。荒々しくも精悍な顔つき、逞しい腕、そして振り上げた剣。
「有名な傭兵団の団長だよ」
「用心棒というわけか」
私は顔をしかめた。ビルートにしてみれば身辺警護のつもりだろうが、ムディカが剣を掲げれば、市民は自分が力を得たと思い込む。その思い込みが要らぬ火種となりかねないのだ。
市民の歓声を浴びる傭兵団長は、心なしか得意げに見えた。そしてその荒くれ者を従える壇上のビルート総帥もまた、悦に入った様子だった。
「理念、力、民意! 汎人類主義のもとに、我らは団結した。その意味を考えていただきたい! 巨大な王国に立ち向かわんとする、民の意志を!」
ビルート総帥の演説に合わせ、傭兵ムディカが誇らしげに剣を一回転させる。民衆が沸く。
だがそれも、城壁の上に一つの可憐な、そして見慣れた影が現れるまでだった。