戦いは防衛軍の勝利に終わった。
冒険者たちは勝ちどきを上げ、兵士たちはほっと胸をなでおろす。
我々魔法戦士団も軍に加わり応戦したが、急な襲撃に被害らしい被害も出さず切り抜けられたのは、やはり勇者姫の奮戦が大きかった。彼女は自ら最前線に立ち、並み居る敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……
「ありゃ、確かに化け物だよな」
その戦いぶりは、歴戦のラミーロが圧倒され、若きシャビーが口を閉ざすほどであった。

ラミーロは先のマデサゴーラ戦役でも支援部隊として参戦した経歴を持つ。私も似たようなものだ。そんな我々の目から見ても今日のアンルシア姫の戦いぶりは鬼気迫るものがあった。
「だが……」
私は首を振る。
その無謀ともいえる奮闘こそが、今の彼女の立場を如実に物語っていた。
「民衆が疑いの目を向けているからこそ、誰よりも矢面に立って戦わねばならんのだ」
戦いの後、肩を抑えて荒い息を吐く勇者姫の姿を、私は目撃していた。無理をしている。心配性のトーレスは落ち着かない様子で首をひねった。
「あんな戦い方をしていて、身体がもつんでしょうか?」
「勇者姫のことだ、心配はいらんと思うが……」
私は一つ、嫌な噂を思い出した。
勇者姫は弱くなっている、という噂だ。大魔王を倒しバルディスタを退けた時ほどの力はもうない、と。

むろん、汎人類主義の連中が流したデマだろう。だがいかに大群とはいえ、通常のモンスター相手に肩で息をする姿など、彼女はこれまで見せたことがなかった。いや、見せないよう心掛けてきたのだ。
どんなに敵を圧倒しようと、弱み一つ見せれば民衆を不安にさせる。それが勇者という立場の背負った業である。現に、守ってもらった当の市民たちがこんな噂をしているのを耳にした。
「勇者姫は襲ってくるモンスターを追い払うのが精いっぱいらしい」
「やっぱりムディカ総長の方が頼りになるんじゃないか?」
と……。
ラミーロが肩をすくめる。
「そういうわけでムディカの人気はうなぎのぼりらしいぜ」
「傭兵団長のムディカ・セントビーか」
私はため息をついた。
彼は"大教授"ビルートの個人的な護衛などではなかった。傭兵団ごと汎人類主義連合に参画し、その中心人物の一人となりつつあったのである。
先ほどの防衛戦でも部下を引き連れ、剣をふるった。確かに見事な戦いぶりだった。
だが、一つ問題がある。
それは、街を守るアストルティア防衛軍との連携を全く欠いた戦い方だったことだ。
彼等は思うままに突き進み、思うままに退いた。一個小隊としては完璧な駆け引きだったかもしれないが、おかげで防衛軍本体の進軍に混乱が生じ、防衛線に穴が開きかけた。その意味では迷惑な英雄であった。

「ムディカ、な」
とラミーロが物知り顔に語る。
「もとはグランゼドーラの兵士団所属だったらしいぜ」