
「ムディカが、元グランゼドーラ兵?」
「ああ」
ラミーロは頷く。意外な経歴だった。
「それが、何故傭兵に?」
「クビだって噂だよ。命令違反やら独断専行やら……ま、問題児ってやつだな」
「なるほど」
頷く。それで合点がいった。
「傭兵の身で汎人類主義などという胡乱な思想に肩入れするのも、グランゼドーラへの反感ゆえ、というわけか」
「じゃあ魔界との争いなんて関係ないじゃないですか」
シャビーが呆れ顔で顔をしかめる。
「個人的な恨みでしょ、それ」
ラミーロが肩をすくめた。
「ま、人のやることなんて、そんなもんよ」
「主義主張を語っておいて、それですか」
シャビーは不満顔であった。一方トーレスは神妙な顔つきであった。
「しかし、今日のような襲撃が何度も起きてますから、連合が傭兵を雇おうというのも理解はできます。犠牲が出ている以上、市民にも不満はあるでしょうし……」
「ほーう、トーレス君は連合擁護派か?」
ラミーロがわざとらしく煽り立てると、トーレスは慌てて弁明した。
「決してそのようなつもりは……」
「ま、じっさい魔族との争いで身内を失ったやつは多いからな」
眠たげな瞼に一瞬、影が下りる。
「そいつらが文句言うのは当然さ。……けど気をつけろよ」
と、彼は手元の冊子をひらひらと揺らした。分厚く立派な表紙のついた小冊子だ。著者名は、ビルート・クァ・ブート。
「あの大教授にかかれば、ちょっとした一言が政治発言になっちまうんだぜ。ヴェリナード魔法戦士団もまた、汎人類主義に理解を示したのである……とかさ」
「まさか……」
トーレスは狼狽しつつも口をつぐんだ。真面目なのだ。私は苦笑しつつ冊子に目をやった。
「ビルートの著書か……よく手に入ったな」
「売り切れ続出だからな。苦労したぜ」
「表紙は立派だ」
「中身もご立派だよ」
ラミーロは冊子を投げてよこした。表紙の分厚さで誤魔化しているが、かなり軽い。内容は把握していたが、私はあらためてページをめくった。ビルートの筆が踊っていた。

切れ味鋭く、小気味良い文章だ。心情に訴えかけるような情熱的な文体でありながら、専門用語と知識のベールでそれを覆い、崇高な学術論文に仕立て上げている。嘘は決して書かず、ただ事実と事実を都合よくつなぎ合わせ、誰の目にもわかりやすく善悪を示す。歴史も政治も物語に変えてしまう類の書物だ。人はその物語に酔い、己をその主人公であると思い込み、そして汎人類主義連合は、その物語を実現してくれる組織だった。
「プロパガンダとしては、傑作だな」
私はそう評価を下し、投げ返す。受け取りながらラミーロも頷く。厚い瞼の下に鈍い光が灯る。
「……全てが間違ってはいないところが特に、だろ?」
「ああ。詐欺師も扇動家も、嘘をつかないのが一番タチが悪い」
トーレスとシャビーが顔を見合わせ、ラミーロが肩をすくめた。どこか退廃的な、特徴的な苦笑いと共に。
表通りから言い争いの声が聞こえてきたのは、その時だった。