
三つ又の街灯が行きかう人々の影を躍らせる。不安定な情勢とはいえ、グランゼドーラは流石に大都市である。襲撃の後にも関わらず、大通りには早くも人の波が戻りつつあった。
オライリーのパン工房を出た我々は事後処理のため、再び防衛軍の駐屯所に向かっていた。
が、しかし。
「どうも、居心地が悪いな」
ラミーロと顔を見合わせ、苦笑する。
町を歩く我々に、好奇と警戒の入り混じった視線が突き刺さっていた。
「見られてますよね」
「ノーブルコートは目立つからな」
神経質そうにあたりを見回すトーレスに私は軽くそう返したが、それが全てでないことはわかっていた。
視線の何割かは、明らかに汎人類主義者だ。ひそひそと囁く声も聞こえてくる。ヴェリナードの介入を何やら邪推しているらしい。

またもシャビーが口を尖らす。
「文句があるなら言ってくればいいのに」
「多少の不満があったって、他国の実戦部隊に面と向かって喧嘩を吹っ掛ける奴はいねえだろ」
ラミーロが笑い飛ばす。それはそうだ。それが常識というものである。
だが、どんな国にも、あえてそれをかなぐり捨てる者がいる。
九分九厘はただの笑いものだが、まれにその中から英雄と呼ばれるものが現れる。
彼も、そういう男だったのか。
少なくともそれを志す男ではあるようだった。
その男は大股で我々の行く手を遮った。
遠慮がちな数々の視線を代表するかのように堂々と、我々の前に立ちふさがったのである。
「おう、派手な服の兄さんがた」
彼は巨体をゆさぶり、特徴的な赤い肩当てを見せつけるように仁王立ちした。傲岸で好戦的な笑み、後ろには何人かの町民が付き従う。全て主義者だろう。
「見かけねえツラだな」
彼は言い放ち、そしていきなり剣を抜き放った。
シャビーが色めき立ち、トーレスが腰のものに手をやるが、私はそれを押しとどめた。ラミーロは無言のまま静観する。私は眼前に突き付けられた刃と、それを得意げに見せつける男の顔を等しく一瞥し、無表情に視線を返した。
「お初にお目にかかる、と言うべきか。傭兵団のムディカ殿」
「おっと、今は汎人類主義連合のムディカ総長と呼んでほしいね。これでもビルート総帥の信任は厚いんだぜ」

剣を一回転させてから足元に下ろすと、石畳が削れる。跳ねた小石が私のブーツを叩いた。観衆はムディカの演劇じみた所作に、熱のこもった視線を投げかける。何かを期待しているのだ。
彼はその視線に応えるように、大げさな動作で私の顔を覗き込んだ。
「ヨソモノがこの国まで来て、何を企んでやがる!」
ムディカの恫喝に、観衆が無言の喝采を上げるのがわかった。
どうも、厄介な連中につかまったらしい。