「ヨソモノがこの国まで来て、何を企んでやがる!」
ムディカの恫喝に、観衆が無言の喝采を上げるのがわかった。
私は内心、辟易としていた。これは人気取りのためにやっていることだ。自分がやりたくてできないことをやってくれる……人はそういう存在を崇めるものだ。
この武骨な男は、そうした心の機微を見抜いたうえでこの芝居を仕掛けてきたに違いない。粗暴だが、そういう計算はできる男なのだとすぐにわかった。
私は殊更に平静を装い、薄い笑みと共に傭兵団長を睨み返した。
「アストルティア防衛軍は多国籍組織だ。各国が綿密な打ち合わせの上で動いている。貴公はご存じなかったようだが」
最後の一言は、挑発である。先の戦いで連携を無視して動いたことを暗に非難しているのだ。この男は学はなくとも、侮辱には敏感だった。すぐに理解した。

ムディカは憤然と息を吐き、もう一度剣を地面に突き刺した。石畳が悲鳴を上げる。
「お前らにはもう任せておけねえのさ。おっと、俺が言ってるんじゃねえ。みんなの意見だ。ビルート総帥の言葉を借りるなら、俺は民草の守り手、民衆の代弁者って奴さ」
なおも芝居がかった動作で観衆を見渡してみせる。喝采の声が上がった。
「ならば己の行いが自分を支持する民をも貶めることをわきまえたまえ、総長殿」
私は肩をすくめ、スッと一歩近づいた。大男の懐へ。ムディカは一瞬汗を浮かべたが、それを諫めるように私は彼の大剣の柄に手を重ねる。
「……街中で剣を抜き他国の使者につきつける……その意味が理解できれば、今頃は兵隊長にでもなっていただろうに」
その一言は、彼のプライドをさらに刺激したようだった。グランゼドーラ兵団を追放された元兵士のプライドを。
顔色が変わる。ムディカは私を上から睨みつけた。
「奴らには俺の価値はわからなかった! こいつらは知ってるぜ」
彼は片手を振り払うように大きく広げ、民衆を指し示した。観客たちが同意の声を上げる。私は相手にせず、彼の隣を通り過ぎようとしていた。
「では彼らを守るため、全力を尽くしたまえ。足の引っ張り合いは、民を危険にさらす行為だろう?」
軽く肩に手を置く。
「お互い、頑張ろうではないか」
傭兵団長と目が合った。怒りとプライド、闘争心の塊のような視線が空中に手火花を散らす。
「さて、行きますか」
ラミーロが流れるようにその間をすり抜けて、歩き去っていく。自然、私とムディカも視線を切り、互いに背を向ける。

シャビーが何か言いたげな視線をムディカと観衆に向けながら通り過ぎ、トーレスは硬い表情のままそれを追う。絡みつくような怨嗟の念を背びれに感じながら、私もまた通り過ぎた。
ムディカが剣を振り下ろしたのだろう。三度、石畳の砕ける音が響いた。
『ムディカ総長、か……』
私は胸の内で独り言ちた。
確かに覇気はある。戦いぶりを見るに腕も立つ。だが根のところはならず者だ。火をつけるのは得意だろうが、やみくもに焚きつけた火の手が、どこに向かうか……
『……そういう男とわかって招き入れる汎人類主義連合……御しきれるつもりだろうが……』
ビルート総帥の大上段に構えた演説を思い浮かべると、自然と眉間にしわが寄った。
グランゼドーラに風が吹く。曇天に雲が渦巻き、ゆっくりと形を変えつつあった。

【チャプター1:マッド・ザ・スワイン 終】
【チャプター2:サム・デイ・ワン・デイ に続く】