「やっぱ、あいつらの仕業かね」
ラミーロが長い腕を首の後ろに回す。
組織的な魔物軍団の襲撃。これが魔族の仕業でないとすれば、最大の容疑者は魔物商人だった。モンスターを違法に捕獲し、犯罪者や反政府組織を相手に売りつける。いわば死の商人である。
魔法戦士団も何度も煮え湯を飲まされてきた。魔物たちに人為的な手が加えられていたとわかった今、彼らの関与は確定的と言っても良い。
「さっそく公表しましょうよ! 全部奴らの仕業だって!」
シャビーが息巻く。

元より一連の襲撃には何者かの意図が見え隠れしていた。それが魔物商人の所業と明らかになれば、魔界への疑惑は解ける。
だがラミーロは首を振った。
「それだけじゃダメだな。証拠がない。魔界の奴らが魔物を改造したんだ、って言われたら、否定できないだろ?」
シャビーは言葉に窮した。
魔物商人は狡猾だ。これまでもいくつもの事件に背後から手をまわし、商品として魔物を売りさばいてきた。決して表立って動こうとせず、捜査の手が伸びようと末端を身代わりにして本体は地下に潜る。簡単に尻尾は掴ませないだろう。
「奴ら、一筋縄じゃあ行かないぜ」
「更なる調査が必要というわけだな」
ふむ、と私は顎に手を当てた。
「盗賊ギルドに伝手がある。裏からの調査も依頼しよう」
「……意外な人脈ッスね」
シャビーが感心したように口をすぼめた。
捕らえた魔物はここに預けることになる。薬が効いているとはいえ、狂暴な魔物を管理し続けるのは少々危険だが……。私が懸念を口にすると、クラハ氏は大丈夫です、と笑みを浮かべた。
「魔物の扱いは慣れてますし、ここには冒険者の方もたびたびいらっしゃいます。多少のことはなんとかなりますよ」
「万一、暴れ始めたら私がメガンテで吹っ飛ばしますからご安心を」
爆弾岩のイワノフ博士が冗談とも本気ともつかないコメント共にかんらと笑った。トーレスがまた一歩遠ざかる。
「彼が壊れたら私がメガザルで直しますので一安心ですな」
メラザルロックのアカイワ博士も莞爾として笑みを浮かべる。
「あ、僕が両方ザオリクしますから大丈夫です」
ひょいと手を挙げた助手のオリク氏は人間だ。どういうわけか、イワノフ博士に心酔している。トーレスがあっけにとられ、クラハ氏は笑う。人と魔物の織り成す寸劇に、私も久しぶりに含みなく笑うことができた。

「いつ見ても、この丘は平和ですな……」
「ええ」
クラハ氏は慎ましく、しかしはっきりと頷いた。
「魔物使いも長い間、偏見の目で見られてきました。それがようやく受け入れられるようになってきたんです」
彼女は柵によりかかるようにして丘を見渡した。
魔物使いが手を叩くとキメラが翼をはばたかせ、木の上に実った果実をつつく。地に落ちた果実をドラゴンキッズが炎であぶれば、香ばしい香りが漂い始めた。魔物使いがそれを皿の上に切り分ける。スライムたちが集まってくる。
いつの間にか私はニャルベルトの影をその光景に重ねていた。どこか子供っぽい、空威張りの憎めない猫魔道……。今はナドラガンドで奮闘している頃だろうか。
「私たちもできる限りお手伝いします」
クラハ氏は穏やかな、しかし強い意思を込めた瞳で私を見上げた。
「魔物と人が手を取り合う世界……この世界を壊させはしませんわ」

彼女の周りで、数人の魔物使いが頷く。魔物使いの矜持である。
魔物使いだけではない。デルクロア博士や道具使い達も同じ覚悟だ。捕獲作戦には天地雷鳴士や盗賊達も協力してくれた。ナドラガンドへの使節団には竜術師たちも加わっている。あらゆる立場の人々がそれぞれの戦場で戦っているのだ。
暗雲立ち込める今のアストルティアにおいて、それは微かな、しかし確かな希望に思えた。