はいどうもー!早いものでもうじき12月。今年も終わりだなあと思うと感慨深いかるみんです。今年も色々ありましたね。ということで、今年最後の?ドレア日誌です。今年はドレア日誌もたくさん書いて満足したかも~。今回はデボラのリボンで!

「あんたは本当に何をやってもダメダメね。よくそんなので今まで生きて来られたわ。私がいないと何も出来ないんじゃないの」
吐いた息が白く染まる。肌に突き刺さる寒さに身を縮ませながら脳裏に思い浮かぶのは、今朝の妻とのやり取りだった。よくある光景。それなのに、どうしてか今日は酷く腹が立った。妻に言い返すことなんてほとんどなかったのに、いつもいつも馬鹿にするな!と、弁当箱も持たずに家を飛び出して出社した。
ああ、今思い出しても腹の虫がおさまらない。もう我慢ならない。絶対に別れる。家に帰ったら妻に三行半を突きつけてやろうと決意して、無理やり溜飲を下げた。一体どんな反応をするのか、怖いもの見たさが僕を刺激する。ふと後ろを振り返れば、まばらに積もった雪が道ゆく人にぐしゃりと踏み潰され、足跡で濁った純白はまるで僕の荒んだ心のようだった。

「はぁ?ご飯が美味しい?何当たり前のこと言ってんのよ。私の作った物が不味いわけがないでしょう。もういい?あんたみたいに私は暇じゃないの」
妻の手料理以外を口にするのはいつぶりだろうか。そう思えるほど、長らく記憶にない。妻と喧嘩をしていつも持たされている弁当箱を持たずに家を出たので、僕は会社近くの飯処に来ていた。周りを見渡せば、僕のような社会人で慌しくごった返している。おちおち味わっている暇はなさそうだなと思った。
……辛い。味が濃い。やってきた料理を口に運んで、真っ先にそう感じた。そういえば、僕は昔から薄味を好む人間だったような気がする。あれ?このピーマンとても苦くて美味しくない……。妻が作る料理に入ってるピーマンは平気だったから、とっくの昔に苦手を克服したはずだったのだけど。
もしかして、僕って結構料理に注文が多い人間だったのか?何でその自覚さえ今までなかったんだ?妻の手料理を食べて、不味いと思ったことがない。苦手だと思っていた食材が入っていても、不思議と食べられて。食べているうちに、苦手ではなくなったのだと思っていたのに。全部僕の思い違いで、全ては妻のおかげだったのか?思い返してみれば、いつも妻は時間をかけて料理を作ってくれていた。果たして愛情のない人間に対して、手間暇をかけて料理を作ってくれるだろうか。

「早くこっちに来て座りなさいよ。もうすぐ見たい番組が始まるんだから。あんたは本当にグズね」
どうして、僕を待ってくれているのだろう。昨晩の出来事。いつもの会話。そんなに見たい番組なら、一人で観ていてもいいのに。……僕は、自分が好きなものを一体誰と共有したいだろうか。ああ、そうか。そうだったのか。
就業時間が過ぎて次々と帰路に着く同僚を尻目に、ぼーっと独りで僕は机に向かって考え込んでいた。とっくの昔に、僕に対しての愛情を失ったと思っていた妻。いつも僕を否定して、いつも酷い言い方をして。僕のことなんか何とも思っていないのだと。でも、言動こそ粗暴でも、愛情がなしには到底考えられないほど、僕に尽くしてくれていた。……目の前の相手を、ちゃんと見れていなかったのは僕の方だったんだ。
それに気が付いた瞬間、僕は一目散に走り出し会社を飛び出した。一刻も早く妻に会いたい。今朝のことを謝りたい。勢いよく吐いた息が白く染まる。視界に映る辺り一面の雪景色が、今朝とは違う僕の気持ちを表しているようだった。

「連絡もしないでこんな時間までどこをほっつき歩いてたわけ!?ていうか、今朝のこともまだ納得してないんだけど!」
家に着き、忙しなく扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは、怒りに肩を震わせ、声を荒げた妻の姿だった。
「ご、ごめん。その……今朝は本当にごめんね」
「はぁ……。もういいわ。あんたにはほとほと呆れて物も言えないわ。……いいからさっさと入りなさいよ。風邪を引かれて移されたら私が困るのよ」
溜め息を吐きながら振り返って居間に戻ろうとする妻の目元に、うっすらと涙の跡が残っているのを、今の僕は見逃さなかった。
ということです。デボラらしくツンツンツンデレ式。タイトルでピンと来た方はいると思いますが、アガサ・クリスティ作「春にして君を離れ」のオマージュでもあります。
人間は、自分の見たいものだけしか見えていない。嫌われていると思っていた相手から、実は好かれていたり。その逆も然りで。思い込みや勘違いが横行する中で、本当に自分の見えている世界は正しいのか。それを問い詰めたのが原作です。重たく苦しい原作ですが、是非一度は読んで欲しい不朽の名作です。おわり。