7 灰色の港町⑤
「チッ……!」
詠唱を強制キャンセルしたエリミリアが、左脚で地面を蹴って後方へ飛ぶも、寸前で届いた緑の切先が肩口から胸元までを袈裟に切り裂く。鋭く燃えるような熱さに魔女が表情を歪めながらも、同時に杖を振りかざす。
「ドルマ――」
斬撃を受けたと同時に得意のドルマ系――もはやドルマータの散弾を至近距離でぶっ放すことに何の躊躇もなかったが、それよりも速く返す刀で杖を弾き飛ばされてしまう。たまらず尻餅をつくエリミリアから少し離れた地点で、黒い宝石の杖がカラカラ……と転がる音が無情にも鳴り響いていた。
裂かれた漆黒のドレスの胸元を押さえる左手の指の隙間から細く血を滴らせ、それでも右手の指先に魔力を集中させるエリミリア。見下ろす黒騎士がその挙動に気づかないはずもなく、妙な動きをすれば即座にフォトンサーベルが届く間合いを保っている――が、そこで手を止めるような魔女ではない。
(私が近接に弱いとは思わないでよね……!)
杖無しとはいえ魔力の高まりを見逃さない黒騎士から、例の電子音のような声で宣告が響く。
「これまでだな」
ブラックメタルの装甲に覆われた右腕が剣を振り上げ、無慈悲に振り下ろされる――その時。
それはウェナを吹き抜ける、蒼き一陣の風か。
執事服を靡かせて放つ烈風のような蹴りが黒騎士の胸を穿ち、着地と同時に脱いだ上着をふわりと魔女に羽織らせる。後ろへとよろめきつつも剣を構え直す、黒騎士の前に現れたのは――
「んっん〜、ヒーローは遅れて現れるってヤツぅ〜?」
羽織る上着で胸元を隠すエリミリアの声を背に、彼は銀縁眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。
アクアマリンの髪が潮風に吹かれ、曇天の隙間から差す一筋の夕日に照らされながら、その執事――セバスはただ静かに、眼前の敵を見据えていた。
〜8 新・魔装展開、ウェナブルー!①へ続く〜