8 新・魔装展開、ウェナブルー!②
態勢を立て直す前に制するべく、今度はセバスのオーラをまとった右拳が黒騎士の顔面を狙うも、相手はこれを咄嗟に左腕で防ぐ。反撃とばかりに右手の剣を振りかぶるも、空いた脇腹に今度は十分にオーラが練り込まれた左拳が炸裂していた。
「――!?」
カウンターを逆手に取られた攻撃をまともに受け、バランスを崩しながらも黒騎士が後退。ひび割れてスパークする右脇腹を見やった後、相手は困惑するような視線を正面のセバスに向けるも、既に彼の姿はない――そう、ウェナブルーは既に天空を舞っていた。
(何の布石もなくただ出すだけでは、技量で勝る相手だと確実に防がれる。虚を突き、必倒必殺の状況を作り出す!)
黒騎士がそれに気づいた時には、既にセバスは蒼穹の双翼が如き両腕を広げて急降下しており、防御態勢を取ろうとするも、それは一手の差で間に合わず――
必殺のタイミングで放たれたウェナブルー・アルシオンは蒼い閃光と共に黒騎士の胸部装甲を大上段から斜めに切り裂き、ブラックメタルのボディから激しい緑光のスパークが迸る。――だが、黒騎士はまだ倒れていない。
最大出力のオーラを斬撃に費やしているため、再充填には一定の時間を要する。渾身の必殺技によって多大なダメージを受けた黒騎士がそれでも食いしばって踏み留まり、今度こそとばかりに猛毒の魔剣を振りかざす。技後の至近距離では回避も叶わず、仮にエリミリアが健在であったとしても、セバスを巻き込むような上級及び極大呪文が制限されることは想像に難くない。絶対的なピンチを前になお、セバスのフェイスガードから紅い目の光は失われていなかった。
オーラが展開できない以上、即座に打てる次の手はない――黒騎士、そして後方で苦悶の表情を浮かべる魔女までもがそう思った瞬間、突如としてセバスの拳に蒼白い波動が巻き起こる。
「闘竜よ、力を!」
セバスを所有者と認めた闘竜の籠手が、主の願いに応えて竜闘気を発動――今や魔装の一部でありながら、それは籠手自体の固有能力として存分に発揮されていた。
(必殺技で倒れないなら――それを超える技で!)
着地の反動を利用したセバスの拳が、昇竜の牙を抉り込むが如く天空へと舞い上がり――ウェナブルー・アルシオンからの連携の締めに竜闘気の強大なパワーをまともに受けた黒騎士の体は、港を越えて海にまで吹き飛んでいた。
「神鳥が地に降り立ち、呼び覚まされた竜の魂がエリュシオンの扉を開く……」
その光景を前に、ようやく暗黒の波動を解いたエリミリアが呆然とした面持ちで詩篇のような言葉を呟く。何とか体内の猛毒には打ち勝てたものの、消耗著しいその顔はいつにも増して青白い。
再び着地したセバスだが、吹き飛んだ黒騎士から最後まで視線を外さずにいた。相手はウェナブルー・アルシオンの一撃はおろか、エリミリアの強大な呪文すら耐え抜いた強敵である。そのまま海へ転落した後、また港から這い上がって来ないとも限らない。だが――その不安は、別の形で杞憂に終わることとなる。
海面へ叩きつけられる寸前の黒騎士が、何かを真下に投げつけるようにメカニカルな黒いマシンボードを召喚する。着水と同時にマシンボードが緑光のブーストを噴出し、水飛沫を巻き上げる姿は瞬く間に水平線の向こうへと消えていった。
(まだあれだけ動けるとは……それよりも!)
黒騎士の完全な撤退を確認し、セバスがエリミリアへと駆け寄る。ぐったりとしているものの、彼女は疲れた笑みを浮かべながら、
「さっきの技名……〈ウェナブルー・エリュシオン〉とかどう? 何か急にそんな感じの託宣が降りてきたのよねぇ……」
と、意外にも余裕なところを見せており、ほんの少しだけ安心したセバスなのであった……。
〜8 新・魔装展開、ウェナブルー!③へ続く〜