8 新・魔装展開、ウェナブルー!⑥
シキョウが般若の面の奥でくぐもった笑い声を響かせ、いつもの様子で肩を竦めてみせる。
「俺がしくじるはずァねェさ、ゼーエンさんよォ。ボスからは殺してもいいってお達しだったが、一匹だけは生け捕りにしてあるぜェ」
そいつは何処に――と問おうとした時、ズカズカと足音を雑に響かせながら、ジンオウが場の空気を一切読まずに大声を張り上げる。
「おうおう、今の緊急集合は一体何だ!? お前ら、何か聞いてるか!?」
ゼーエンとシキョウの間に割って入るかのように流れをぶった斬るジンオウだが、それを眺める般若の面の奥の瞳は、酷く冷ややかな紫に染まっていた。
「ハッ……すぐに分かるぜェ」
吐き捨てるシキョウの耳に非情さすら感じられる機械音がカシャカシャと近づき、やがて壇上に現れたのは首領――ではなく、ディザイアの黒いボディであった。
辺りを見回すモノアイの緑が一瞬輝きを増した後、現在この場には居ないメギウスの音声がディザイアを通して響き渡る。心なしか、その声は普段よりも濃い疲労感が漂い、低く感情を押し殺しているかのように聞こえた。
『――皆さん、お揃いですね。今回は事情がありまして、このまま遠隔で失礼します。ご存知かと思いますが、そちらの様子はディザイアを通してちゃんと見えていますので、どうかご心配なく』
喋るキラーマシンを目の当たりにしている感覚に襲われつつも、主の前と同様にゼーエンが姿勢を正す。シキョウは変わらず飄々としており、今回はその二人に挟まれる形でジンオウが三幹部の中央に位置していた。
『さて……まずは今回の作戦、お疲れ様でした。完了の時点でシキョウさんから報告はもらっていますが、よく生け捕りにしてくれましたね』
メギウスの声に応える代わりに、シキョウの影が色濃い闇の色を帯びる――そこから呼び出された無数の黒いマドハンドの手に押し出されるかのように、紫のバンダナを頭に巻いた魔物商人と思しき頬骨の尖った人間の男が、息も絶え絶えと言わんばかりの姿を現した。
「ヒィィ、もうあの暗くて狭いところには帰りたくない……頼む、助けてくれ! 何でもするから!」
シキョウの影に丸一日近く閉じ込められていたのがよほど堪えたのか、すっかり怯えきった魔物商人の男はガタガタと命乞いを始めるのであった。
『所詮は確たる信念の欠片も持ち合わせない、薄汚い魔物商人といったところか……まあいいでしょう。お前たちの頭目――ウングラの居場所を吐けば、その安い命だけは助けてもよいのですがね』
ディザイアのモノアイが魔物商人の男へピタリと向けられ、メギウスの言葉とは裏腹に左腕のビッグボウガンが脳天へと狙いを定める。その矢は鮫をも仕留めるような大型の銛に等しく、まともに食らえば、人間の頭部など高所から落とした西瓜のように砕け散ってしまう。
「や、やめてくれぇ! ボスの居場所は本当に知らねえんだ! た……ただ、明後日の取り引きはかなりデカいから、ボスが直接出向くって専らの噂だ! そうだ、場所は――」
べらべらと喋り出す男を見やった後、シキョウがディザイア越しにメギウスへ頷いてみせる。そして、
「あァ、もういいぜェ。こっちが掴んでる情報と照合しても、そいつが正しい可能性が高いってこたァよく分かったさ」
「なら俺が嘘を言ってねえことも分かるはずだ! なぁ頼むよ、ここまで喋ったんだから助けてくれよ……な、本当に、この通りだ!」
バンダナを巻いた額を赤い絨毯に擦りつけ、必死の土下座で懸命に命乞いをする男。どうせ死ぬであろう目の前の弱者に全く興味を示さないジンオウの傍ら、ゼーエンがチラリとシキョウを見やる。その表情は見えないにもかかわらず、般若の面の奥でニヤニヤと笑っているように思えてならない。
「ねェボス……折角ですから、そいつでブチ抜くのは勘弁してやりましょうや」
思わぬシキョウの言葉に驚きを隠せないゼーエンだが、先に反応したのはジンオウであった。
「おう、正気か? こんな弱者を生かしておくとは、外道衆様もいよいよヤキが回ったと見えるな」
「お前さんのオツム程じゃあねェがなァ。こいつは一応喋ったんだ、その分の約束は守らなきゃあ男がすたるってェもんさなァ……そうだろ、あんた?」
〜8 新・魔装展開、ウェナブルー!⑦へ続く〜