9 黒翳のアーシュラ③
「なるほど、確かに素晴らしいセンスだ。それだけに技が伴っていないことが惜しまれるがな……」
心底残念だ、と言わんばかりのアーシュラから油を注がれたかのように、ジンオウの炎が怒髪天を衝くが如く燃え盛る。その炎刃は怒りに任せて大上段に振り上げられており、明らかに剣の間合いの外に立っている女へと狙いを定めていた。刹那、その意図を察したアーシュラが槍を左に持ち替え、空いた右手に轟雷の闘気を集中して後ろ手に引く。
直後、ジンオウが頭上で炎刃を交差し――力任せに振り下ろされたそれは炎の斜め十字を描き、炎刃かまいたちとなって襲いかかるも、同時にアーシュラが掬い上げるように右腕を薙ぎ払い、深紅の轟雷が地を這う波動となって放たれる!
(何だこれは、俺は生身の兵器を見ているのか!?)
ジンオウ、アーシュラ――両名の恐るべき闘気の砲弾がぶつかり合う様を前に、ゼーエンはもはや戦慄を通り越した畏怖すら覚えていた。シキョウもまた思わず懐の中の両拳を握り締めて目の前の光景に見入っている中、ディザイアのモノアイだけが静かに観測を続けていた。
やがて烈火の飛刃と轟雷の波動は相殺、先に踏み込んでいたジンオウが即座に間合いを詰めて右の炎刃を振りかざす。実体を持たない武力兵器に受けは無意味と理解しているアーシュラが刹那の見切りでそれを避け、続いて繰り出された左の炎刃はその手首を槍で跳ね上げることで即座に対応。堪らず左手から剣を取り落としたジンオウの隙を見逃さず、空いた左脇腹にニーハイヒールの爪先が容赦なく突き刺さる。
「ぐが……ッ!」
上半身の装備が胸を開けたベストのみであったことも災いし、振り抜かれたアーシュラの蹴りをもろに食らって悶絶するジンオウ。今度は見下ろす立場となったアーシュラが不意に黒竜爪の槍を手放し、床に落ちたそれがズシン……と地面を揺らす。
「ふむ……こうか?」
素手となったアーシュラが右の手刀に深紅の轟雷をまとわせ――それは瞬く間に、彼女の腕ほどもある刀身の雷刃と化す。自身が絶技と称するスキルを容易く再現されたジンオウが口を開く間もなく、
「私を相手によく戦ったが、これで最後にしよう」
雷刃を振り下ろさんとする漆黒の執行人に、それでもジンオウは苦し紛れに右の炎刃を横へ薙ぎ払う――が、既にアーシュラの姿はそこにはない。
最初に気づいたのはゼーエンであった。彼の目にもアーシュラが突然消えたようにしか見えなかったが、予感めいた何かが視線を高い天井に向けた時、雷刃を伴う漆黒の翼は中空をふわりと舞っていた。その時、ふとゼーエンはアーシュラが対戦相手であるジンオウではなく、こちらを見たような気がしてならなかった。
反撃のはずが相手を見失ったジンオウが気づいた時には、既に爆発させたオーラを推進力として急降下するアーシュラの姿は目前まで迫っており――
「――あの技は、アズール・プルミエの!?」
セバスがウェナブルー・アルシオンとして使用している戦技をも再現してみせたアーシュラの雷刃が右から斬り下ろす深紅の閃光を放ち、瞬時に左へ斬り上げるように跳躍――その連撃は斬り裂かれたジンオウを中心に、まるで深紅のV字を描いているようであった。
〜9 黒翳のアーシュラ④へ続く〜