10 執事と魔女と魔法戦士と②
昼下がり――ヴェリナード城下町では、一組の男女が多くの道行く人々の視線を集めていた。
憧憬、羨望、嫉妬――黒く艷やかなボディコンシャスな装いの金髪グラマラスな人間の美女の隣には、こちらも銀縁眼鏡に高貴で洗練されたバトラースーツを着こなす執事然としたウェディの美青年。どちらも高身長な二人が水の都を並び立って歩く姿は、見る人々の様々な感情をかき立てるものであった。
そんな視線もどこ吹く風とばかりに、二人は連れ立ってアクセサリー屋へと入っていく。金の指輪やネックレスなどがキラキラと輝く中、エリミリアは上品な金縁の眼鏡を手にしていた。
「セバスちゃんのそれって、度入りじゃないよね」
「仰る通りです。幻惑や目のゴミ、油跳ねなどを防ぐための習慣のようなものですが……エリミリアさん?」
自身の銀縁眼鏡について説明していたセバスが、不意にそれを外されてエリミリアの手の金縁眼鏡に差し替えられる。彼女はその顔をまじまじと見つめながら、
「んっん〜、やっぱよく似合うわぁ♪――すみません、これくださいます?」
セバスが止める間もなく、エリミリアがさっさと店主への支払いを終えてしまう。
「これは今回の手掛かりとは別に、私の個人的なお礼。改めて、昨日は本当にありがとう♪」
心のこもったお礼の気持ちを断ることは、それこそ礼を失した行為。エリミリアからありがたく受け取った金縁眼鏡を装着したセバスの顔には、聡明さに加わり高貴な輝きが宿っていた。
「ありがとうございます、私には勿体ない品です」
「お礼を言うのは私、ほんっとよく似合ってるよ」
かくして装いも新たなセバスは、エリミリアと共にヴェリナード城へと到着。円形のエントランスから見て左斜め奥の階段、二階の魔法戦士団サロンへ続くその上り口を警護しているウェディの衛士に、エリミリアがツカツカとヒールを鳴らして歩み寄る。
「魔法戦士団のレゼールさんにお取次ぎを」
「分かりました、少々お待ちください」
衛士が階段を上り、しばし待つ二人。程なくして戻った衛士が、
「すぐに向かわれるそうです、もう少々お待ちいただけますか」
「承知しましたわ。ところで、貴方にとってレゼールさんってどういうお方?」
美女からの思いもよらぬ質問に驚く衛士だが、すぐに姿勢を正して、
「はい、あの方は魔法戦士団や我々衛士団との隔たりを全く感じさせない、公平に気兼ねなく接してくださる素晴らしい方だと思います」
「そう、ありがとう。――ですってよ、レゼール」
セバスと衛士が階段を見上げると、聖銀のレイピアと青い魔法戦士団制服を装備した、毛先のレイヤーが特徴的な銀髪のウェディの男性がこちらに向かって下りてくる姿が見えた。一礼する執事と、敬礼する衛士。
「ようこそ、エリミリアさん。して、そちらのお方は?」
ハットを脱いで一礼を返すレゼールと呼ばれた魔法戦士が、エリミリアの隣に立つ執事を見やる。目が合ったセバスは、眼前の魔法戦士とは初対面にもかかわらず、その凛とした鋭さを感じさせる目に何故か既視感を覚えていた。
「初めまして、セバスと申します。今回はレゼールさんが追っていらっしゃる件について、お話を伺いたく参った次第です」
周囲に配慮し、あえて詳細な名を出さずに表現したセバス。しかしレゼールが反応を示したのは、セバスの名そのものであった。
「セバス殿……そうか、そなたが……」
何かを言いかけるレゼールだが、衛士がいる場ではまずいと思ったのか、セバスとエリミリアをエントランスの隅にへと誘導する。そこで声をひそめて、
「戦団に関しては、私も皆さんに相談したいことがあります。しかし、ここでは都合が悪い……今晩、グレンの地下闘技場でお会いできますか」
グレン地下闘技場――表には出られない連中を含め、ある者は裏で名を上げるべく強さを誇示し、またある者は手っ取り早く高額なファイトマネーを得るために戦う、オーグリード大陸全体の中でもとりわけアンダーグラウンドな雰囲気漂うエリアである。一説ではグレン城下町を治めるバグド王も存在を知りつつ、強者がしのぎを削る場として黙認しているとも言われており、それが今日まで存続している理由の一つなのかもしれない。
「承知しました。しかしヴェリナードの薔薇とも言われる魔法戦士団の方が、あのような場に馴染みがあるとは意外ですね」
セバスとて、かつては戦団の一員として裏社会に身を置いていたこともある執事――蒼翼のセバスの名の他、一部では〈ヘルバトラー〉などと呼ばれたりしたこともあったかどうかは定かではないが、だからこそ、あそこがどのような場であるかはそれなりに理解していた。
〜10 執事と魔女と魔法戦士と③へ続く〜