10 執事と魔女と魔法戦士と④
その夜――グレン城下町、裏通りの外れにて。
何の変哲もない古びた家屋が連なっており、窓には外から板を打ち付けられている。一見して誰かが住んでいるようには見えない寂れた通りに、エリミリアと連れ立って現れたセバスのファッションは、既に彼女のセレクトによって固められていた。
メインの黒地はシックな印象を与えるが、各所のベルトや埋め込まれたリベット、胸元のチェーンがヘビーメタルな重厚感を演出している。
「ライダージャケットと迷ったけど、私としてはこのハンタースーツかな〜。このブラックとシルバーで、セバスちゃんなら品を損なわずにアングラ感出せると思うわぁ」
確かに普段のイメージとは大きくかけ離れてこそいるものの、セバスの洗練された立ち振る舞いもあってか、市井の人々が目を背けるようなアウトローにはとても見えない。それでいて、これから踏み入れる場所には問題なく溶け込めそうなバランスが絶妙なスタイルである。
「では、ここから先は私がリードさせていただきます。ならず者たちが多いところですし、十分にご注意を」
「はーい、頼りにしてるわね〜♪」
何だか嬉しそうなエリミリアを背に、セバスが連なる家屋の内の一軒を選び、古めかしい扉を四回ノックする。――しばらくして、扉の奥からしわがれた声が返ってきた。
「……何だい、腰抜けに用はないよ」
「牙は折れず、鋭く研いで時を待つ」
声の主に向けて、セバスがあらかじめ決められていた合言葉を口にする。
すぐに内側からガチャリと解錠され、オーガの老婆によって中へ迎え入れられた二人。その目に入ったのは、やはり何の変哲もない薄暗い民家の風景でしかない。が、正面の壁を回り込んで奥まった場所の突き当たり――そこに隠されていた地下への階段が、口を開けて来訪者を待ち受けていた。
「セバスちゃんはこっちのおばあちゃんの入口からなのね〜。私は向かい側のマッチョんとこをメインにしてるわ」
「随分と久しぶりでしたので、合っているかどうか少し不安がありましたが」
入口は幾つかの家屋に分けられており、それぞれでセバスが口にした合言葉を必要とする。いずれも地下へ階段が通っており、そこを下りれば同じ場所へとたどり着けるといった仕組みである。そうすることで来場者同士が顔を合わせにくくできる他、入口を分けて対応しなければ、とても捌けるような人数ではない。
セバスを先頭に地下への階段を下り、その先の扉を開けると――そこには、熱気あふれる空間が広がっていた。
中央に位置するメインの闘技場――その階段状の観客席からは歓声や怒号が巻き起こり、四角い石造りのリングでは、今も闘士たちによる血で血を洗う激戦が繰り広げられている。リングへの入口には参加者のエントリー受付や賭け金を募る窓口が設けられており、外側の通路の壁沿いには控室、その一角では酒場のテーブルやカウンターが賑わいを見せていた。
〜10 執事と魔女と魔法戦士と⑤へ続く〜