10 執事と魔女と魔法戦士と⑤
「ではレゼールさんが来られるまで、あちらで待たせてもらうとしましょうか」
傍目にはハンタースーツに金縁眼鏡が光るといった出で立ちのセバスが、こちらは明らかに男性の視線を釘付けにするボディコンシャスなエリミリアを酒場までエスコートする。軽めのカクテルを片手に通路の人々を見やるも、まだそれらしき人物は見当たらない。――と、そこへ、
「よぉ兄ちゃん、べらぼうにイイ女ぁ連れてるじゃねえか。な、俺にもおすそ分けしてくれよ?」
エリミリアを連れている時点で可能性は考慮していたが――やはりと言うべきか、闘士の一人と思しき覆面マントのゴツいマッチョなパンツ男が絡んできたのであった。何故か楽しそうなエリミリアの隣で、カクテルグラスを置いたセバスが冷たい視線だけを男に向ける。
「謹んでご遠慮させていただきます。闘士であればこのような場外ではなく、リングの上でのご活躍でアピールされては如何かと」
「言うじゃねえか優男、へへへ……ところでよぉ、機甲戦団ガイデスって知ってるか?」
目の前の知性を感じない大男から、およそ聞かされることはないと思っていた古巣の名を耳にし、セバスの顔が僅かに強張る。
「泣く子も黙る機甲戦団、当然知ってるよなぁ……俺はなぁ、そこの突撃隊長をやってるゴーリキっつーモンだ。何なら次の試合でやり合ってみるかい、お?」
戦団の名と自慢の分厚いバトルアックスをチラつかせ、ゴーリキと名乗る大男が脅しをかける。普段であれば全く相手にしないセバスだが、気づけば彼は大男へ向けてゆっくりと立ち上がっていた。
「……ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。私の名はセバス、以後お見知りおきを」
「あ? てめーの名前なんざ知るかよ。こっちはいつやってもいいんだぜ、おい?」
途端に興味を失ったかのような顔で、つまらなそうにカクテルグラスへ視線を戻すエリミリア。それに反応したかのように、セバスがアクアマリンの髪をスッと後ろへ整え直し、金縁眼鏡の位置を直す。そして、
「いいでしょう。戦団の突撃隊長とやらの実力、是非とも見せていただきたい」
その瞬間――酒場の空気が冷えるような気配に襲われたことに、果たして何人が気づいたであろうか。その一方でカクテルグラスを傾けながら、エリミリアは既に賭け金と払い戻し金の計算へと思考を切り替えていた。
〜11 無法者の挽歌①へ続く〜