11 無法者の挽歌②
勢いよく振り下ろされたバトルアックスは石畳に叩きつけられており、事態が飲み込めていないゴーリキ。しかし、確かにその場にはセバスが立っている。まるで風を斬ろうとしたかのような手応えに、ゴーリキが首を傾げつつも再び斧を振り上げ、
「おっとっと、手元が狂ったかな? へへへ、それじゃあもう一度!」
「敵前で堂々と隙を晒して、二度目があるとお思いとは……失礼ですが、随分とおめでたいようで」
「ほ、ほ、ほざきやがれぇ〜!」
失礼と注釈されつつも明らかな侮辱を受け、ゴーリキが再びいきり立って斧を振り下ろす。が、やはり空を切るばかりで当たる兆しすら見当たらず――今度はセバスの拳が、深々とゴーリキの腹部にめり込んでいた。
「ご、ごふっ……!?」
「ここまで隙だらけだと、生身の私でもそれなりにダメージは与えられるようですね」
斧を落としてよろめくゴーリキを眺めつつ、セバスが淡々と語り始める。
「今後のために一つ教えてあげましょう。まず、機甲戦団ガイデスには〈突撃隊長〉などという役職は存在しません」
言い終えると同時にセバスの疾風のような回し蹴りが、防御すらままならない相手の側頭部に炸裂。たまらずダウンするゴーリキが「え、え?」とばかりにうろたえ始める。続けて、
「正しくは〈特攻隊長〉です。文字通り命を賭けて最前線で先頭に立って切り込み、生きて帰れるだけの卓越したセンスと戦闘力を必要とするのですが……貴方はどうですか?」
歩み寄って来るセバスを前に、尻餅をつきながらも後ずさるゴーリキ。裏社会での脅しとしては極めて効果の高い戦団の名を持ち出したはずが、気づけば自分が追い込まれており、慌てて現状を把握しようとする。
「な、なんでてめえがそんなことを……!?」
「複雑な思いのある組織ではありますが、いざ貴方に名乗られると、少しばかり訂正したくなりましてね」
「う……う、うるせぇぇ!」
もはや破れかぶれなゴーリキがやにわに体を起こし、おもむろに剛腕右ストレートを繰り出すも、あまりに大振りなそれはテレフォンパンチでしかなく、逆にその右手首をセバスに捻り上げられてしまう。完全に極められたそれは力ではどうにもならず、苦し紛れに左拳を出そうとするも、今度はその力を利用されて投げ飛ばされる始末であった。
「もう一つ。私は貴方の名乗りを受けて、自己紹介をしましたね。戦団に属しているのであれば、私の名に何かしらの反応があって然るべきかと思ったのですが」
石畳の床を覆面越しに舐めさせられたゴーリキが、追い詰められた状態で容量の少ない脳を必死でフル回転させる。
(確かこいつ、セバスって言ってたよな? セバス、セバス……え、ま、まさか!?)
ハッと顔を上げ、わなわなと指を差しながら、
「そ……蒼翼の、せ、セバス……!?」
「捨てた名ではありますが、一応は本名も含まれておりますのでね。僭越ながら、OBはそれなりに敬った方がよろしいかと思いますよ、突撃隊長さん」
ここに来てようやく全てを悟ったゴーリキが、今度は恐怖のあまり震え出す。曲がりなりにも裏社会に身を置いている彼が、その名前を利用していた組織の三幹部〈蒼翼のセバス〉〈緋炎のジンオウ〉〈白夜のシキョウ〉――これらの一角を忘れていたのは、もはや致命的といってもいいミスであった。
〜11 無法者の挽歌③へ続く〜