12 紺碧の深海竜、再び②
しばし、無言で視点をぶつけ合う二人。緊迫する場面へ割って入るかのように、
「へぇ〜、君があのゼーエン君なのね。私は魔女エリミリア、今後ともよろしくねん」
レゼールの傷を手持ちのハンカチで縛って手当てを施したエリミリアからの不意打ちとも呼べる一言に、ゼーエンが思わず目を丸くする。
「な、ゼーエン君……!?」
「セバスちゃんから聞いてるわぁ、今は君がメギウスの側近を務めてるんですってね。で、なんでその大男を連れてるわけ?」
ゼーエンの傍らで直立不動の姿勢を崩さないゴーリキをブラックオニキスのネイルで指差し、不思議そうに小首を傾げるエリミリア。気を取り直したゼーエンが、
「ふん、戦団員を名乗りたいっていうこいつの願いを叶えてやっただけさ。俺は優しいんだ、な?」
「へい、ゼーエンの旦那!」
同意を求められたゴーリキがビシッと返答する姿はなかなかにユーモラスであり、先程絡んできた威圧的な態度は微塵も感じさせない。ふん、と面白くもなさそうに鼻を鳴らすゼーエンだが、やがて再びセバスへと向き直る。
「すぐにでも決着をつけたいところだが、あいにくそれは今日じゃない。このアズール・ドゥジエムとウェナブルーが死力を尽くして戦う時……それは必ず訪れる。それを忘れないことだな、セバス」
「無論だ、ゼーエン。再び私の前に立ち塞がるその時こそ、ウェナブルーは真の力をもって貴様を叩き潰すものと心得るがいい」
既にセバスをアズール・プルミエとしてではなく、宿敵ウェナブルーと捉えているゼーエンを前に、今度は内で燃える闘志を隠すことなく応じるセバス。ゴーリキを筆頭に他の客が殺気で震え上がる中、ゼーエンがニヤリと笑って立ち上がった。
「さて、そろそろ試合の時間だ。お前に敗北して以来、久々にここで鍛え直しているおかげで生傷が絶えなくてな……また会おうぜ、先輩」
コートを翻して去って行くゼーエンの後を、慌ててついて行くゴーリキ。しばらくその様子を見送っていた一同だが、やがて悲痛な顔のレゼールがポツリと口を開く。
「……これでお分かりでしょう。今の私が、より戦団を追うことに躍起になる理由が。情けない話ですが、やはりたった一人の弟を放ってはおけないのです」
力なく肩を落とすレゼールに、セバスが立ち上がりながら、
「お気持ちはお察しします。今はまず相手の戦力をを知る意味でも、これから始まる彼の試合を観戦してみませんか」
「そーそー、セバスちゃんは特に観ておいた方がいいわね。その前にレゼールは救護室でホイミでもかけてもらいなさいな、あそこは最大でもベホイミ止まりだけど」
そう言いながら、率先して次の試合のオッズを確認に行くエリミリア。仮に今のゼーエンが新進気鋭の扱いを受けているようであれば、対戦相手次第では先程のセバスの時のように大きく儲けることができると考えたのだが……。
「ん? 今回対戦するのって、もしかして――」
――その瞬間、リングから大音量が響き渡った。
突然の大音響に反応したセバスが駆け込み、賭け札を買っていて少し遅れたエリミリアが後を追うと、リングは試合前から熱気全開の大盛況であった。
ゼーエンが登場する前から現れていたウェディの少女が色とりどりのスポットライトを浴び、トゥーラとは似て非なる六弦の楽器――ギターで狂おしくも物悲しいロックな旋律をかき鳴らしながら、ヘッドセットマイクを通した歌声で空気を引き裂くその姿は、観客席に熱狂の渦を巻き起こしていた。
〜12 紺碧の深海竜、再び③へ続く〜