12 紺碧の深海竜、再び⑥
その途端、手をピタッと止めて「ハァ?」といった表情のレミエル。その顔が見る間にどす黒い紫に染まり、彼女のテンションが一気に爆発する。
「クソが! だったらリクエスト通り、死んでから後悔させてやるよ!」
言うが早いが棒高跳びの要領で悪魔的な跳躍を見せたレミエルが、滞空中に棍を凄まじい勢いで回転させ始め、同時にゼーエンも残された右腕を後ろ手にスッと引く。虎爪に固めた拳に紺碧の闘気を集中させた時、レミエルが最高到達点から棍を大上段に振り上げ――
「ぶちまけろッ!!」
跳躍、回転、高度、そして最大のテンションで繰り出される深紫の一撃。脳天に食らえば即死は避けられない奥義を前に、しかしゼーエンは右腕に最大限の力を込めて待ち受けていた。
(これは賭けだった……棍スキルの単発最大破壊力にして、奴の性質から恐らくこれを選ぶだろうという奥義……棍閃殺! これを撃墜すれば!)
刹那、ゼーエンが上空のレミエル目がけて虎爪を振り抜き――そこから放たれた全力の闘気が飛刃と化し、相手の棍閃殺を迎撃する!
「ちょ、何よこれー!?」
リーチで負けるはずがないと確信していたレミエルが思わぬ対空砲火を前に、流石の超反応で振り下ろす棍をとっさに防御へと回そうとするも、自らが最大威力で繰り出した棍閃殺の勢いを殺すことはできず――
「うきゃあああぁぁ!」
ゼーエンが一か八かで放った紺碧の飛刃がまともにカウンターヒットし、錐揉み回転で吹っ飛ぶレミエル。あわや受け身も取れず場外に激突するところを、
「ふぅ……間一髪でしたね。大丈夫ですか?」
客席からいち早く飛び出していたセバスが受け止めており、同時に自身のハンタースーツを、上半身がズタボロでほぼ半裸同然のレミエルにファサ……とかけるといった早業を披露していた。
「う、うーん……」
セバスの腕の中で明らかに気を失っているレミエルを、立会人が素早く確認――そして、高らかに宣言する。
「――勝者、ゼーエン!」
まさかの大番狂わせに怒号や悲鳴、驚愕の叫びが入り混じって嵐のように巻き起こる場内。その中で、勝ち名乗りを受けたゼーエンがゆっくりと立ち上がり――無言で、静かに右拳を上げた。
一瞬、静まり返る客席。そして――
「うおおおおおー!」
「すげえぜ! あのレミィに勝ちやがった!」
「ゼーエン! ゼーエン! ゼーエン!」
勝者の拳に、今度は場内が大歓声一色に染まる。レミエルのファンも多いものの、それ以上に強者を歓迎する気風の高まりが、今回のゼーエンの大金星を祝福していた。
「おっしゃー! 流石はゼーエンの旦那だー!」
喜ぶゴーリキとは対照的に、今度はレミエルに賭けていたエリミリアの賭け札が大量に舞い散る結果となる。レミエルを抱きかかえたセバスがリング上のゼーエンと視線を交差した時、勝者の顔には既にあの不敵な笑みが戻っていた。
(お見事でした、ゼーエン。次に会う時が、少々恐ろしくもありますね)
宿敵とも呼べる相手に、今はただ心中で称賛を贈るセバス。場内の歓声から離れた入口付近で一人観戦していたレゼールが、静かにその様子を眺めており――彼は黒いマントを翻し、スッとその場から離れるのであった。
〜13 忍び寄る脅威①へ続く〜