15 魔導戦艦バルデアス③
「あァ、そうだ。ジンオウの奴が死んだぜ」
大ホールへ向かう途中の通路で、シキョウが世間話の延長線上のように口にした内容には、セバスも流石に驚きを隠せない様子で、
「あのジンオウさんが……一体誰に?」
「スポンサーから紹介されたアーシュラって女との一騎討ちに敗れてなァ、今はそいつが特攻隊長だ。ま、とどめを刺したのはボスだがな」
あのジンオウを一騎討ちで下す相手が存在するなど、にわかには信じがたい。セバスにとってジンオウは恐るべき戦闘者であり、その彼に勝った相手がこの先で待ち受けているかもしれない――警戒を最大レベルに高めながら、いつしか二人は大ホールの扉前へと到着していた。
見慣れていたはずの重い両開きの扉を、セバスがゆっくりと押し開け――赤い絨毯の奥、通常であればメギウスが位置しているはずの中央では、セバスと同じく既に魔装展開済みのゼーエンが待ち受けていた。その脇には戦鬼の仮面を被り、漆黒の出で立ちをした見覚えのないオーガの女性――彼女こそがジンオウに勝利したアーシュラであると、セバスはシキョウとの会話から理解していた。
「よう先輩、ご到着をお待ち申し上げていたぜ。まさか魔装が強化されているとは恐れ入ったがな」
壇上に向かって歩み寄るセバスに対し、ゼーエンが見下ろしながら大仰に両腕を広げてみせる。一方のアーシュラは黒竜の爪を思わせる禍々しい槍を肩に担いだまま、動く気配はない。
「ボスはどうしたんだい、ゼーエンさんよォ」
いつの間にか壇上に移動していたシキョウが問うも、鈍い紺碧に輝く頭部装甲を振るゼーエン。
「少し立て込んでおられるそうだ。よって……セバスへの意思確認は、このゼーエンが代行する」
ゼーエンを中央に、シキョウとアーシュラが両脇に立つ。アズール・プルミエであった自分が去り、ジンオウが斃れた後の戦団三幹部を目の当たりにし、セバスは全身がぞくりと凍りつくような感覚に襲われていた。
「意思確認……? 何のつもりですか、ゼーエン」
プレッシャーを振り払うかのように、セバスが全身のオーラを高めながらゼーエンを見上げる。魔装操者同士がしばし無言で視線を交錯させ――やがて、ゼーエンが口を開く。
「俺とお前の因縁、今は置いておいてやる――俺達と共に戦え、セバス。アズール・プルミエとアズール・ドゥジエムが並び立てば、機甲戦団ガイデスは盤石になれる」
まるで手を差し伸べるかのようなゼーエンの後に、シキョウが言葉を続ける。
「あのルクスガルンでの取り引きが罠だなんてこたァ、俺らもとっくに把握してんのよ。だが、ウングラは確実にあの場に来ている。何故なら、奴は自分の目で俺達の壊滅を見届けなきゃあ気が済まねェからよ」
その傍らでアーシュラが軽く嘆息し、引き続き男性幹部二名が語るに任せている。だが、その目は眼下のセバスをじっと見つめており、セバスは不思議とその視線を不快には感じなかった。
「ルクスガルンの戦いまででも構わない。お前との決着は俺も望むところだが、今はマスターの悲願のためにも、奴らの息の根を確実に止めねばならない……!」
そう語るゼーエンの右拳は固く握られており、そこには紺碧のオーラが色濃く滲んでいる。その力強さはそのままメギウスへの忠義を、そして彼自身の思いの強さを表していた。
「マスター・メギウスのために前線へ立ち、地下でも己が身一つで戦い抜いて高みを目指す貴方の姿は……尊いものだと、心の底から思いました」
再び、無言の時が流れる。セバスがスゥ……と息を吸う音が、魔装のフェイスガード越しに漏れ聞こえ――そして、彼はこう答えた。
「ですが……目的のためには手段を選ばず、力での制圧を是とするやり方に異を唱え、私はマスター・メギウスと袂を分かったのです。戦団が今のままである限り、共に戦うことはできない」
シキョウが「ほらな?」と言わんばかりにゼーエンを見やる。アーシュラがほんの少し頷いたように見えたことが、セバスには妙に印象的であった。
「そうかい……その選択は尊重するとだけ言っておくぜ、先輩。なら俺は――アズール・ドゥジエムとして、この場でお前を叩き潰しておかないとな!」
〜15 魔導戦艦バルデアス④へ続く〜