15 魔導戦艦バルデアス④
ゼーエンの全身から殺意の塊のようなオーラが噴出し、戦団の意に背くセバスを引き裂かんと構えを取るも――それを遮ったのは、アーシュラの重々しい槍であった。
「今の彼と戦えば……ゼーエン、例え貴公が勝てども無傷では済むまい。この後を考えれば、それは致命的ではないかな」
ここに来て初めて口を開いたアーシュラだが、ゼーエンやシキョウには、その声が酷く低音に抑えられているように聞こえてならなかった。
「貴公が己自身を鍛えることで魔装の更なる可能性を引き出した者だとすれば、彼は……ウェナブルーは、魔装の意志によって進化を引き出した選ばれし者だ。あの闘竜の籠手を見るがいい、凄まじい闘気を発している」
アーシュラに促されたゼーエンが目にしたセバスの拳は、魔装本来のオーラとは異なる密度の闘気を湛えていた。無論、それで自分が負けるとは思っていないゼーエンではあるが、
「随分と魔装にお詳しいようだが、あんたがそう言うならそうなんだろう。で、この場はどう収めるつもりなんだ?」
「私に彼を試させてもらいたい。ここで終わる程度の男ならそれもやむなし、私が認める男ならその裁量に任せてみたいと思うが、如何だろうか」
「ああ、承知した」
ゼーエンが即座に答え、シキョウも「いいんじゃねェの?」と同意する。頷いたアーシュラがセバスに槍の先端を向けつつ、ゼーエンに向けて少し声を落とす。
「メギウス殿はお立て込みだと言ったな……ゼーエン、貴公はそちらへ向かえ。これは私の勘だが、彼は今あまりよくない状況にあると思う」
「……何だと、何故そう言える」
「恐らくだが、私の知人が訪ねて来ている」
アーシュラはそれ以上口にしようとはせず、ゼーエンもまたそれ以上を訊こうとはしなかった。ただ一言「分かった」とだけ言い残し、紺碧の余韻を残してその場から姿を消した。
「んじゃまァ、お手並み拝見といきますかね」
シキョウが一歩引き、アーシュラが壇上からセバスの前へ静かに降り立つ。重量級の槍を持ちながら羽毛のようにふわりと舞い降りるその姿は、魔天から迎えに来た使者を思わせるものであった。
「アーシュラさん……ですね。何の因縁もない貴方と、どうしても戦わなければなりませんか」
「貴公が戦団を敵に回すのであれば、私との戦いもまた避けられぬのは自明の理。それに私が求める力に満たなければ、いずれにせよ近い内に貴公は死ぬ」
これは脅しではない――本能でそれを察し、無意識の内に臨戦態勢を取るセバス。アーシュラは槍を下ろしたままで闘気を高め、その体から深紅の稲妻が迸る。初めて対峙する相手であるにもかかわらず、セバスは奇妙な既視感を覚えずにはいられなかった。
「さあ、ウェナブルー。貴公の力と技、その全てをこのアーシュラに見せてみるがいい」
「――ウェナブルー、推して参る!」
セバスとアーシュラが同時に地を蹴り、般若の面から覗く紫の瞳でそれを見届けるシキョウ。戦団の本拠地とも言うべき魔導戦艦バルデアスで、アズール・プルミエの過去に決着をつけるための戦いが、遂にその第一幕を開けるのであった。
「今夜はいらっしゃるご予定ではなかったかと思いますが、どういう風の吹き回しです?」
メギウスの研究室――本来であれば主が座して然るべきそのデスクを来客に譲り渡し、自身は手慣れた手つきで二人分のコーヒーを淹れる。
「……まあ、大体察しはついていますがね。灰色の港町での件でしょう?」
コーヒーカップの一つをデスクに置き、自身の分は手に持ったまま、メギウスが来客と向かい合う。口元にはいつもの酷薄な笑みを浮かべつつ、その深紅の瞳は射るように眼前の相手を見据えていた。
「さあ、どうぞお召し上がりください……先生」
メギウスが置いたコーヒーカップを手に取り、香りを楽しむように口をつけた後――魔女エリミリアは、ただ静かに妖艶な微笑みを湛えていた。
〜16 孤高の道を征く者達①へ続く〜