17 魔物商人ウングラ④
「詫びだと? 戦団の犬の分際でほざきおる!」
未だ負けを認めないウングラだが、セバスは先刻からその言動に違和感を覚えていた。
そう――相手は終始、こちらを戦団の所属だと思っている。セバスの存在そのものを含め、そのアズール・プルミエが既に戦団を離反していることは、魔物商人の頭目であれば把握していてもおかしくない情報のはずなのだが……。
「一つ伺おう、ウングラ。何故、私を戦団所属だと判断した?」
「何を今更……その魔装に加えてメギウスのことを知っている奴なら、戦団の戦闘者と考えるのが当たり前だろうが!」
至極もっともな回答ではある。間違いなくその通りではあるのだが、セバスはどうしても違和感が拭えずにいた。――だが、今やるべきことは一つしかない。
「どうあれ、貴様には眠ってもらう。ヴェリナードの当局へ引き渡した後、然るべき裁きを受けるがいい」
「くそっ、このままでは俺が……ガアァァァッ!」
ウングラが最後の足掻きで左手の爪を振り上げるも、セバスの右腕から伸びるオーラの刀身――低出力に抑えられ、全身に電圧のようなダメージを受けた頭目が、力なくその場に倒れ伏す。
(さて……ウングラこそ制圧したものの、魔物商人の残党や残りの軍勢が控えている可能性は十分にある。後はレゼールさんの無事を確認しなくては)
更に地下へとセバスが歩を進めようとした際――背後に恐ろしい殺気を感じて振り向くと、先程気絶させたはずのウングラが倒れた状態でありながら仮面に覆われた顔を上げ、海賊が用いる銃でセバスに狙いを定めているところであった。
「ククッ……麻痺には耐性があって、な……」
「くっ、何という執念……!」
セバスが反射的に回避行動に入ろうとする寸前、引き金を絞ろうとしたウングラの動きが止まる。その背中に聖銀のレイピアを突き刺していたのは――黒衣の魔法戦士、レゼールであった。
「な……何故、こ、この俺、を……ぐふっ!」
とどめを刺されたウングラからレイピアを引き抜き、血を払うように振り抜いてから鞘へと収めたレゼールが、ゆっくりとセバスへ向けて顔を上げる。
「申し訳ない、セバス殿。魔法戦士として、この男は生かして捕らえるべきだと理解していましたが……私の大事な仲間があんな風に殺されたことを思うと、どうしても憎しみを抑えきれず……!」
「……いえ、おかげで私も助かりました。ご無事で何よりです、レゼールさん」
右腕から伸ばしていたオーラの刀身を解除し、肩の力が抜けたかのように腕を下ろすセバス。再び相まみえたレゼールの、凛としていたはずの目からは力が感じられず、悲しみに暮れているような表情にも見えた。
「このルクスガルンにウングラが来ている以上、戦団は再び現れるからと、引き続き力になってくれていた彼らを……全て私の責任です。ここから生きて帰れたならば、私は魔法戦士団を辞して、一生を懸けて必ず償っていきます」
力なくうなだれたレゼールだが、それを振り払うように再び顔を上げる。まだ二日にも満たない付き合いではあるものの、それはセバスがよく知るレゼールの顔であった。
「しかし、機械をも操るウングラはもう居ない。奴が単独で前線に現れたのは不可解ですが、亡くなった彼らに少しでも報いるためにも、せめてこの場の魔物商人どもは一網打尽にしておきたい。今となってはもはや手遅れでしかありませんが……私情で戦団を追っている場合ではないことは、痛い程に理解しているつもりですから」
マントを靡かせて歩き出すレゼールから、セバスは嗅ぎ覚えのある嫌な臭いを感じ取る――慣れてしまうにはあまりにも悍ましい、腐臭のようなあの臭い。
ここまでの激戦を経て、ただ一人生き残った歴戦の勇士が漂わせる生々しさの表れかと思ったが、セバスはそれ以前にもこの臭いを嗅いでいる――ゲルト海峡へ向かう洞窟の中で、見せしめに殺されたであろう魔物商人の周囲に漂っていたものと同じであり、この大空洞の外でダークパンサーの群れが現れる前も同様であった。
獣臭さが原因か?――そうも考えたが、気づけばセバスは自分の前を歩くレゼールの背に、違和感から来る一つの疑問を投げかけていた。
「レゼールさん――激戦を経たはずの貴方の服が、どうしてそのように綺麗なままなのでしょうか」
〜18 恐るべき真相①へ続く〜