18 恐るべき真相①
レゼールが足を止め、しばらく背中を向けたまま何かを考える素振りを見せ――やがて目線だけを向けられたその横顔は、急にじっとりと嫌な湿り気を帯びたような、ニタリとした笑みを浮かべているように見えた。
「おいおい、酷いなぁセバス殿……私が戦わずに逃げ回っていたとでも?」
まるで空洞内の空気全体がゾッとしたかのような豹変ぶりに、セバスが無意識に息を呑む。それを吐き出すように、漆黒の魔法戦士へ言葉を続ける。
「全くの無傷でありながら、なぜか体にまとわりつくその腐臭は一層の濃密さを増している。レゼールさん……貴方はその臭いを使って、ダークパンサーを操ったのではありませんか?」
黙って目線だけを向け、不気味に沈黙したままのレゼール。セバスが考えていたのは、地下闘技場でゼーエンやゴーリキから聞いた魔物商人の一件、そして現時点でのウングラ戦についてであった。
「――今思えば、貴方はあまりにもタイミングが良すぎた。ゼーエンが魔物商人の襲撃を受けた時、ゴーリキさんから思わぬ反撃があった時点で駆けつけている。そして、先程にしてもそうです。――まるで、魔物商人が捕らえられることを防ぐかのように」
事実、地下闘技場に現れた魔物商人は、後に命を奪われており――そこには、今のレゼールがまとうものと同じ臭いが残されていた。先のウングラも、セバスに銃口を向けた時点で好機と見て口を封じたのではないだろうか。
「極めつけは、私が背中に感じた殺気です。銃こそ抜いていたものの、あの状態のウングラには到底出し得ない、どす黒い殺意。信じたくありませんでしたが……あれを放てるのは貴方しかあり得ないのです、レゼールさん」
ここまでを聞いたレゼールの肩が、細かく刻むように震えだし――次の瞬間、彼は高らかに笑い出した。
「クク……フフフ、アハハハハ! ウングラには出し得ない殺意? 現にお前は感じたんだろ、アズール・プルミエ!」
明らかに人が変わったようなレゼールを前に、しかしセバスは彼の言っている意味が理解できずにいた。
その時――セバスが向かおうとしていた奥から、複数人が現れる気配と共に、声が空洞内に響き渡る。
「もうそろそろいいんじゃないですかね、頭目」
「そうですよ、私達もう待ちくたびれましたよ」
既に息絶えているウングラが目に入っていないのか、現れた二人組――猛牛の角を模したような帽子を被り、毛皮のようなケープを羽織った魔物使いのスタイルで揃えた人間の男女が、遺体を全く気にせずに歩み寄って来る。それに答えたのは死んだはずのウングラではなく――
「ああ、頃合いだな。折角この俺がスカウトアタックでキラーマジンガ共を使えるようにしてやったのに、役に立たない身代わり君だったぜ」
ぶっきらぼうな口調で聖銀のレイピアを鞘ごと投げ捨てたレゼールが、現れた女から悪魔の爪を受け取り――それを両手に装備した後、シュッと空を切ってみせる。
「実のところ、剣はそこまで得意ではなくてねぇ。そして……こちらの名前で会うのは獅子門以来かな、アズール・プルミエ。俺こそが魔法戦士レゼールにして、魔物商人の頭目――ウングラだよ」
信じ難い事実に絶句するセバスを前に、レゼール――否、真のウングラは少し申し訳なさそうな顔をしてみせながら、これまで全く見せたことのない歪んだ笑みで一人楽しげに語り始めた。
「申し訳ないね、セバス殿。でも、俺がヴェリナード魔法戦士団に属しているのは本当だよ? これでも代々魔法戦士を輩出してる、それなりに名家の出だからね。後は人よりちょっと演技が上手いってところが自慢かな。よかっただろ? あの真に迫った表情からの語り、一番自信のある演目なんだよ!」
心底愉快でたまらない様子のウングラに、ピンクの長髪をふわりと揺らす毛皮ケープの女が嫌そうな顔で言葉を差し挟む。
「それにしても頭目、やっぱり臭いですよ。魔物寄せの臭いエキス、使い過ぎじゃありません?」
「あまり臭い臭い言うなよレーナ、これに関しちゃ俺の自信作なんだからさ。匂い袋とは比較にならないレベルで魔物を寄せつけるから、こっちの商品を呼ぶのに最適なんだよ。その分、臭過ぎるのが難点だがね」
レーナと呼んだ女の前で、懐からエキスの入った小瓶を爪の先で摘んで取り出してみせるウングラ。この臭いがセバスに尻尾を掴まれる一因となったにもかかわらず、それでも何処か軽い調子の相手に、セバスはまるで心を持たない怪物を目の前にしているような気さえしていた。
〜18 恐るべき真相②へ続く〜