18 恐るべき真相③
魔物に有効な洗脳効果でも含まれているのか、ウングラの撒いたエキスの影響下にあるモンスターは、全て魔物商人の忠実な下僕と化していた。
「――よし、かかれ!」
再びルークが鞭で地面を打ち鳴らすと同時に、俊敏なダークパンサーの群れを率いるレーナを先頭に、全てのモンスターが大挙してセバスへと襲いかかる。その中において鋼塊の痛哭将だけが、奥でウングラを警護するかのように鎮座していた。
「正義の味方気取りでここまで来たことを、あの世で後悔するのね! キィィヤッハアァー!」
レーナの叫び声に呼応したかのように構えたセバスが、空洞内を高らかに跳躍する。再び宙を舞った蒼穹の神鳥は光の翼を広げ、閃光と共に群れの中へと降下するのであった――。
「素晴らしい戦闘力だ! よもやこれ程までに戦い抜くとは、流石は元戦団の魔装操者といったところか! だが、所詮はこれが単体での限界! やはり戦いとは、全てを蹂躙する圧倒な数ということなのだよ!」
勝ち誇るウングラの声。たった数分なのか、それとも数十分が経過しているのか――もはや何頭の魔物を倒したのかも分からないウェナブルーだが、既に立つのもやっとといった状態であった。それでも未だ闘志は燃え尽きておらず、下手に近づけないモンスター達は周囲で威嚇の唸り声を上げるに留まっている。
「勝利を確信するのは、このウェナブルーが倒れてからにするのだな……見ろ、まだ私は戦える……!」
オーラは既に弱々しく、もはや跳躍も叶わぬ脚は鉛のように重い。だが拳は今も力強い鋭さを失っておらず、前線のレーナも何度かカウンターを被弾しており――事実、左の竜爪はセバスの拳によって粉々に砕かれていた。
「私の〈ドラゴンクロー絶〉が……何なのよ、こいつ!?」
「そろそろ俺も手を出すか、モンスター共も警戒し始めているからな」
こちらも肩で息をしているレーナとは対照的に、ルークは落ち着いた様子を崩さず、その場からセバスめがけておもむろに鞭を振るう。
(くっ、やはり挙動が重い……!)
回避が間に合わず、セバスがとっさにガードへ切り替えるも、その上から長い鞭が巻きつけられてしまう。ルークが封じた片腕を強引にこじ開け、そこから生じた防御の隙間を襲うレーナ。
「ほんっとしぶとい! そろそろ死んで!」
普段のセバスならそれでも蹴りで返すことができたタイミングだが、脚部の反応が重く迎撃が間に合わない――脇腹を削られ、遂にセバスの片膝が落ちる。翼をもがれた蒼穹の神鳥は、今や顔を上げるのが精一杯といった有り様であった。
「一人相手に時間をかけ過ぎたな。頭目が笑っている内に、いい加減死んでもらうとしよう。――お前達、そろそろとどめを刺せ!」
セバスの腕の縛めを解き、ルークがけしかけるように地面を鞭打つ。生き残った数体のダークパンサーや原生モンスターの目に再び凶暴な光が宿り、それらが再び一斉にセバスへ牙を剥いて踊りかかる!
「グルゥゥアアァァァァッ!!」
「ギィィヤオオォォォゥゥ!!」
(これまでか……志半ばで倒れる私の不甲斐なさをどうかお許しください、クロム様)
セバスがうなだれると同時に魔装が解け、とっくに限界を越えていた彼が迫り来る死に身を委ねんとした――まさに、その時。
「俺との決着前に死んでもらっちゃ困るぜ、先輩よ!」
一発、そして二発――虚空に刻まれた紺碧の爪跡が斬撃波となり、魔物の群れを一気に蹴散らす!
魔装顕現によって具現化した爪を振り抜いた、紺碧の深海竜を思わせる魔装の男――そこに立っていたのは、紛れもなくゼーエンであった。
「アーシュラさんは中心に風穴を! シキョウさんは持てる幻魔の全てで敵を殲滅、アーシュラさんが開けた動線の確保です!」
機甲戦団ガイデス首領メギウスの指示に、残りの幹部が即座に応える。
「承知した!」
「OBにだけいいカッコはさせられねェからよォ!」
今回は右肩と胴回りに深紅の鎧を装備したアーシュラが、穂先に四枚の翼を模した新たなる槍に全力で轟雷の闘気を込め、それを群れの中心に向けて投擲する。まさに武力の砲弾と化したそれは軌道上の魔物の群れを瞬く間に消滅させ――最奥まで届き得たそれは、鋼塊の痛哭将の腹部をも貫通する!
「ウギャアアアァァァァ!!」
のたうち回る痛哭将から即座に離れたウングラの顔から勝ち誇った笑顔が消え、憎悪に歪んだ表情で絞り出すように声を震わせる。
「機甲戦団ガイデス……愚かな弟よ、ここでも俺の邪魔をするのか!」
アーシュラの手に槍が引き戻されると同時に、シキョウが両手で高速の印を結ぶ。彼自身の影が深い闇の色に染まり、それは恐るべき幻魔の形を取りつつあった。
「――出ませい、暗黒千夜フウジン! 暗黒千夜ライジン!」
〜18 恐るべき真相④へ続く〜