19 首領の翠刃、頭目の黒爪②
「――そうかメギウス、お前があの時の! いやぁ、俺もあの頃は駆け出しの若造でついついやり過ぎてしまってね! あの島の皆さんには申し訳ないことをしたと思ってるよ!」
「おかげで私は機甲戦団を作り上げ、こうして貴様を追い詰める日が来たわけですがね」
翠刃の短剣でウングラの喉元に狙いを定め、
「これは母の形見でしてね。感傷で戦うつもりはありませんが、貴様を切り裂くには一番相応しいものでしょう」
暗殺者のように音もなく近づき、メギウスが黒スーツの裾をはためかせながらウングラに短剣を突き立てる。首領の殺気すら感じさせない翠刃を頭目が黒爪で弾くも、もう片方の爪で反撃する時、既にメギウスはその場から姿と気配を消していた。
「流石にレベルの高い隠形を使うね、メギウス。だが、俺も負けてはいないぜ?」
ハットを深く被り直し、ファントムマントで身を隠したウングラの姿が消えたような錯覚を見せ――刹那、両者の刃が激しく交差し火花を散らす!
(この爪の振るい方、まさにゼーエンさんの兄といったところですかね。なるほど、表社会では徹底して剣での戦闘でカモフラージュしていたというわけか)
「その短剣スキル――確かにあの島には、その型を使うウェディの女が居た! 戦闘能力を持たない夫を守るため、健気に俺と戦って果てた哀れな女!」
挑発を交えつつ左右の爪で応戦するウングラだが、メギウスはそれを短剣一振りで冷徹に捌き切る。やがて黒爪の隙間を縫って、ヴァイパーファングの平刺突がウングラの胸元を捉えるも――不意にファントムマントの動きが常人離れした速度で靡き、信じられないタイミングでそれを回避する。
「魔法戦士の見た目でビーストモード、なかなかにトリッキーですね」
「よく分かったな! このスピード、このパワー! もはや先程の比ではない! それがお前の全速力なら、ここで死ぬのはやはりお前ということになるわけだ!」
魔物使いの奥義であるビーストモードで超加速を得たウングラが、ほぼ不可視の速度で獣牙の如き戦技――ビーストファングと称される四連撃でメギウスを引き裂かんとするまさにその時、
「――魔装展開」
黒騎士――ノワール・ゼロの姿に変身したメギウスの黒い装甲がビーストファングの初撃を弾き、よろめいたウングラの胸元に短剣を投げつける。思わぬ反撃を何とか超加速で回避し、辛うじて急所は外すも、その左肩には翠刃が深々と突き刺さっていた。
「ぐあっ!……まさか、お前も魔装を!?」
「逆に聞きますが、機甲戦団の長である私が部下の技を使えないとでも?――いえ、答えなくても結構です。貴様の口数はあまりにも多過ぎる」
苦悶の表情で短剣を引き抜き、それを投げ捨てるウングラ。気づけばメギウスの右手には短剣と同色のフォトンサーベルが具現化しており、その切っ先は仇敵へと突きつけられている。
「私の魔装は防御性能も非常に優れていましてね、そのエビデンスは魔女エリミリアの呪文にすら耐え抜くことで実証済です。さて……その汚らわしい爪、果たして私の命に届きますかね?」
ビーストモードで優位に立ったつもりのウングラが、相手の切り札によって一気に劣勢へと立たされる。だが――ウングラは不利を悟れば、面子やプライドをかなぐり捨ててでも即撤退を選択できるしたたかさをも有しており、それはメギウスもよく知るところであった。
「確かにこのままでは勝ち目は薄いな、ビーストモードの間に一旦退かせていただくとしよう!」
律儀に申告するが早いが、ウングラが一目散に最奥へと超加速でダッシュし――大空洞の崖っぷちで、その姿は瞬く間に消え失せる。
(崖から落ちた?――否、下へと続く転送装置か)
すぐさま崖の先端まで追ったメギウスだが、岩肌の地面で青白い光を湛える見慣れない円形のメカニズムが視界に入る。そこに足を踏み入れさえすれば、崖下の更に深奥へと渡れる仕掛けが施されており、当然のように転送装置で崖下まで追うメギウス。それを目にしたアーシュラが、巨大な痛哭将からの攻撃を自身へ寄せつけながらゼーエンへ叫んだ。
「ゼーエン、貴公も追え! この場は私とシキョウで抑える!」
振り下ろされた巨大なハンマーをアーシュラが舞うように避け、痛哭将に生まれた多大なる隙をシキョウが召喚した鬼神が襲う。即座に跳躍したアーシュラ自身も上空から五月雨のように槍の連撃を浴びせながら、ゼーエンこそが雇い主である首領メギウスの安全確保、そしてウングラ――兄であるレゼールへの追及も含めて適役であると判断していた。
〜19 首領の翠刃、頭目の黒爪③へ続く〜