20 Secret of Evolution④
「グゥゥ、ちょこまかと小賢しい真似を……だが、お前を潰すのは後でも構わんのだよ!」
その巨体からは想像もつかない素早さでセバスに勝るとも劣らない跳躍を見せ、地響きを轟かせてメギウスの眼前に着地するウングラ。すぐさま後を追うセバスだが、
「当然、そう来るよなぁ!」
今度はそれを予測していた巨獣の裏拳をまともに食らい、崖っぷちまで吹き飛ばされ――メギウスが突きつけられたのは、翼をもがれた蒼穹の神鳥が崖の向こうへ墜ちる絶望的な場面であった。
「セバス!」
救出へ向かわんと一瞬踏み出しかけたメギウスだが、背後のメディカルデバイスで横たわるゼーエンの存在から思いとどまらざるを得ない状況に、思わずマスクの中で歯を食いしばる。
「ああいう反射的な動きってのは、得てして直線的になりやすいものなんだよ。蚊や蝿が鬱陶しいのは何故だと思う? それは動きが不規則だからさ。その点、今のセバス殿はいい的だったぜ!」
「随分とご機嫌なようですが……獣に堕ちた貴様如きが、このメギウスに勝てるつもりでいるのか!」
漆黒の魔装を翠玉のオーラで覆い尽くしたメギウスが、フォトンサーベルの刀身をブーストアップさせて貫かんと突撃するも、
「素晴らしい出力だが、やはり速さではアズール・プルミエに一歩劣るようだな!」
巨大な右拳が容赦なく振り下ろされ、叩き潰されたかに見えたメギウスだが――左腕にオーラで顕現したバックラーによって巧みに軌道をずらされた拳は岩面を穿ち、ウェナブルー・クラッシュと同じく逆袈裟に振り上げられた刃がウングラの腹部を焼き切る!
「グアァッ!? 小癪な真似を!」
怒りに任せて踏み潰そうとするウングラの足を避け、今度は焼き切った傷口に刃を突き立てるメギウス。その苦痛から巨体が数歩後ずさったウングラの目は、怒りで真っ赤に染まっていた。
「脆弱な人間如きが! 調子に乗っていられるのもこれまでだ!」
「流石は人間以下の生物、説得力が違いますね。だが、この程度で調子に乗っていると言われてもな!」
メギウスが極限まで出力を上げたフォトンサーベルを上段に振り上げる姿に、ウングラがバックジャンプで間合いを離す。後はアウトレンジから地を這う衝撃波でも撃っておけば、攻撃呪文を使えない黒騎士などひとたまりもない――はずであった。
「でかい図体の割に腰が引けているじゃないか、ウングラ! 余程この剣が恐ろしいと見えるな!」
もはや口調を取り繕う気すらないメギウスが、本来ならジンオウが二刀で繰り出していた斜め十文字斬りを一刀で再現してみせる。ウングラがハンマーナックルを地面に叩きつけるよりも早く、フォトンサーベルから放たれた波動が巨獣を襲い――不自然に盛り上がった胸筋は、執念を体現したかのようなX字に焼けただれていた。
「ハハハハ! 見たか、直撃だ!」
この辺りは師弟で似たのか、メギウスが勝ち誇ったエリミリアと同じような高笑いを見せる。事実、ウングラにとっても魔装操者がこれ程までの抵抗を見せることは完全に予想外であった。
「グルルゥゥ……やってくれたなぁ。だがプルミエが墜ち、ドゥジエムが未だ立ち上がれない中、どう足掻いてもお前一人で俺を倒すことなどできはしないのだ……!」
牙を剥いた獣のように唸り声を上げ、ウングラがその巨体を大きく震わせて毒々しい紫の電流をまとい始める。盛り上がった胸筋をドラミングする度に溢れ出る膨大なエネルギーを前に、すかさずメギウスが磁界シールドを展開。同時に全身のオーラを防御に回しながら、現在置かれている局面を冷静に分析する。
(雷属性に何処まで耐えられるかは定かではないが、あの規模ではゼーエンさんを連れての回避は間に合うまい。ここは決死の覚悟で耐え凌ぎ、後は……)
そこまで考えた時、漆黒のマスクの中でふっと自嘲的な笑みを浮かべ、
「このメギウスともあろう者が、神にでも祈るか……などと考えるとはな」
「ゴォアアアァァァーッ!!」
咆哮と共に解き放たれた紫電はウングラを中心に扇状の広がりを見せており、やはり逃げ場はない――覚悟を決めたメギウスが岩肌を踏み締め、腕をクロスさせて歯を食いしばる。
津波のように襲い来る極大の電圧に飲み込まれ、荒れ狂う翠と紫のスパークが全身を覆い尽くす。漆黒の装甲に亀裂が走り、破片が弾け飛ぶ中、今や磁界シールドと共に翠光の大盾と化したメギウスは、ただひたすら背後のゼーエンを守り続けていた。
〜21 Kill me till the end①へ続く〜