22 それは影のような夢②
地に伏しながらも残された可能性に縋り、ウングラがもはや叩きつけられた痛みも忘れてなりふり構わず喚き散らす。
「クハハハハ! 忘れたのか、俺が召喚した痛哭将アボクは未だ健在! 本来であれば防衛軍が総出で戦わなければならない代物相手に、貴様らだけで勝てると思っているのか!? 今ここで俺が奴を呼べば、その時点でもう終わりなんだよ!」
思わず空洞を見上げたセバスの一瞬の隙を突き、腕を振り払ったウングラがよろよろと間合いを離す。そのまま痛哭将を自分の元へ呼び寄せようと懐に手を入れた瞬間――先程セバスが見上げていた上層階から、鬼気迫る気合の声が轟いた。
「――轟殺!」
同時に激しい爆発音が響き渡り、何事かと見上げたウングラの目に映ったのは――今まさに呼び出さんとしていた痛哭将が凄まじい勢いで中空に吹き飛ばされ、そのまま深い谷底へと墜落していく姿であった。
「はぁ!?……え? 一体、何が起こった!?」
今見た光景が信じられないウングラが思わず素っ頓狂な声を上げた時、セバス達の背後から何かを引きずるような音が聞こえてきた。
「アーシュラが渾身の拳で場外へ吹っ飛ばしたのさァ……あのデカブツの体力はほとんど無尽蔵みてェなモンだからよォ。いい加減、俺も幻魔からのダメージフィードバックがしんどくなってきたんだよ」
セバスが振り返ると――そこには左半身を自らの血で真っ赤に染め上げたシキョウがよろめきながらも、上で倒してきたルークの髪を掴んで引きずる姿があった。
「シキョウ……無事でしたか」
「このザマを見て無事だと思えるんならそうだろうなァ、セバス。流石に幻魔も無事じゃあ済まなかったが、上の連中は全部片づけておいたぜェ……こいつも含めてなァ」
信じられないといった面持ちのウングラへ向かって、シキョウが引きずってきたルークの体を投げつけてみせる。ピクリとも動かないその姿はシキョウが召喚した火柱や稲妻で焼け焦げており、戦える状態でないことは一目見て明らかであった。
「おのれ、機甲戦団ガイデス! 愚かな弟といい、何処までも俺の邪魔をしてくれる!」
血を吐くような声で吠えるウングラ。それを哀れみすらこもった目で見据えるセバスの脇を、一つの黒い影がゆらりと通り過ぎる。あまりにも無に近いその動きに、目の前で起ころうとしていることが理解できずにいたセバスの視界に入ったのは――
「……マスター・メギウス?」
いつの間にかウングラの目の前で幽鬼のように佇んでいたメギウスは魔装を解いており、その手には母の形見でもある翠刃の短剣が握られていた。
「皆さん……ここまで、よくやってくれました……セバスさんも、本当にありがとうございます……。この瞬間を、私はどれ程待ち望んだことか……!」
本来であれば即死級のダメージを食らいながらも、ノワール・ゼロの防御能力を最大限まで高めて紙一重のところで生き延びたメギウスが、それでも深紅の瞳の輝きを失うことなく、憔悴しきった白い顔に酷薄な笑みを浮かべながらウングラへと迫り寄る。もはや執念だけで意識の糸をつなぎ止めているだけに過ぎないはずのメギウスへ向けて、ウングラが返り討ちにせんとばかりに悪魔の爪を構える。
「馬鹿め! もはや死んだも同然のお前など……なッ!?」
メギウス目がけて踏み込もうとしたウングラの足が、何かに掴まれて動かせない。思わず地面へ視線を下ろすと――ウングラの手によって倒れていたゼーエンが残された力を振り絞り、まるで縋りつくかのように必死の形相で足を掴んでいた。
「あんなもので、俺がくたばると思ったかよ……!」
〜22 それは影のような夢③へ続く〜